第4話 -バッセン-

 仕事終わりに社用車を走らせて向かったのは、バッティングセンターだった。


 北原さん御用達のこのバッティングセンターには、日本でも数か所しかないという、プロ仕様のがある。

 

 コンビを組んだ初日にここに連れて来られた俺は大いに面喰った。


 野球好きだとは聞いていたが、てっきり見る専門だと思っていたからだ。

 しかも彼女が手続きをしているのはブルペンの方だ、ストレス解消にバットを振り回すキャリアウーマンも居ない事はないだろうが、ボールを投げてストレス解消となると、相当レアなケースだ。


(うまく捕れるかな…)


 そんな俺の心配は全くの杞憂きゆうに終わった。


 彼女は、マウンドには向かわずに、キャッチャーミットをつけると、腰を落として構えてしまったのだ。


 初日はとりあえず五十球。


 初めて硬球を投げて悲鳴を上げる俺の関節を余所に、彼女は言った。


「鈴木くん、筋いいよ!明日からも頑張ろうね!」


 正直、遠慮したかったが、何気ない俺の質問への答えで気が変わった。


「北原さんは、どうしてキャッチャーやるんですか?」

「鈴木くん、知らないの? キャッチャーはって言うでしょ!」


 それ以来、俺は二日に一回のペースでここに来て投げ込みをしている。


「鈴木くん、今日からカーブ行ってみようか!」


(カーブ!?)


 俺はあのリアルな夢を思い出した。


(あの時あそこでカーブを投げていればどうなってただろう?)


 俺はあの興奮に満ちたスタジアムを思い出して、身震いしながら返事する。


「北原さん、ぜひ教えてください!」


 北原さんは無邪気な笑みを俺に返すと、悪戯っぽく答えた。


「よし、がんばれ~!すずき~!」

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