第13話 王都に向かう日

     


3月19日


 いつも通り起きる。

前日の朝までと違い部屋を出る直前、ペンダントに触れ、その存在を確かめる。

「うん、しっかりここにある。」



「母さん、行ってきます。」

「はいはい、気を付けてね。」

その言葉を聞きつつ、コートを羽織り、あらかじめリビングに置いておいた荷物を手に取る。



お屋敷の食堂に入ると、何人かいびきをかいている人がいる。

昨日行われたお見送り会(お酒を飲みたいだけ)の影響ですね。

それらの屍を尻目に朝食を摂る。

紅茶の準備をしにキッチンに入る。

ここでの仕事もしばらくできないですね。王都でも同じことはするのでしょうけど。


よし、準備もできたことですしお嬢様を起こしに行きますか。



「ユア、昨日アルに何かしたでしょう。昨日から、あなたの魔力がずっとアルに纏わりついているのはわかっているのよ。」

「あれは、お守り……旦那様に頼まれたもの。」

「父上が……もしかして成人の儀の翌日にいなかったのはあれのためだったのかしら?」

「そう、あの魔法石の入手を頼まれた。あとは術式の発注に時間が必要だったから昨日までかかった。」

「ふーんそう。父上が原因なら私が言うことはないわね。」(仕方ないか……)

コンコン 

「アルかしら?」

「そうです。入ってもよろしいでしょうか?」

「いいわよ。」



「おはようございますお嬢様!

 すぐに紅茶を召し上がりになりますか?」

「ええ、そうしてくれる?」

「畏まりましたお嬢様。」


「ユアさんもおはようございます。手伝っていただけますか?」

「もちろん…」




「ふぅ…この屋敷ともしばらくお別れね。」

「そうですね。ですが私たちも共に参りますし、王都にはお兄様がいらっしゃるのですから、

 そう考えすぎることはないと思いますが。」

「まあ、そうね。兄さまには、しばらく会っていないものね。

 じゃあそろそろ、父上と母上の元に行きましょう。朝食の時間がもうすぐでしょう?」


その後、お嬢様をご案内したあと、出発の最終確認をしに玄関前に向かう。

そこには、普段から用いている馬車と、普段は使用しない荷運び用の幌馬車、

同行する使用人とその家族用に用意された二台の馬車、それと領軍から、

選出された護衛部隊が使用する幌馬車がすでに並んでいた。



お嬢様の荷物と自分の荷物がしっかり固定されているのを確認していると声をかけられた。

声のした方を向く。


そこには、今回の護衛部隊の隊長を務めるセントさんがいる。

「おはようございます、セントさん。何か御用ですか?」

「いや~お嬢様の荷物でも物色している不届き者かと思ってな。」

「そんなわけないじゃないですか。わかっていて言っているでしょう?」少し不満げに言う。

「ガハハハッすまんな、つい言いたくなっちまったんだ。

それにこういう事はいつも言っていることだろう?諦めてくれ

これが俺流の挨拶みたいなもんだからよ!」

反省する気のない満面な笑みで返してくる。

こんな人でも、領軍の大隊長ですからなんとも言えないですけど。


「それにしても、わざわざ大隊長を辞めて王都のお屋敷の警備隊長になるなんて、

 どうかされたのですか?」

「ああ、そのことか。簡単なことよ、俺も43歳になったんだ、そろそろ家族共々、安全な所で仕事をしてもいいだろうと思ってな。」

「なるほど、だから同行者名簿に奥さんであるカーラさんと娘さんでリュカさんの

 名前があったんですね。」

「なんだ?アルもしかして、家内に気でもあるのか?」ギロッ

「いえいえそんなわけないですよ。」

「そうだよな。いくらカーラが綺麗でもそんなことはないわな。

 あ、そうか!リュカの方か。いいぞ、アルにならリュカのことを任せても。」

グッと親指を突き上げるダラスさん。

「はいはい、そろそろ仕事に戻りたいので冗談を止めていたただいてもよろしいでしょうか?」

「なんだよアル、お前に武器の扱い方を教えてあげた頃のようにフランクに接してくれよ。」

「それとこれとは別ですよ、セントさん。これで失礼しますね。

 話なら出発してから付き合いますから。」

そう言い残し、別の馬車の点検に向かう。

セントさんはああ言っていたけど、銀髪は地毛、身体能力もまったく衰えていないのだから、

年齢よりも、家族のことを想っての行動なのだろうか。


あのアルも来年で成人か、早いもんだ……



その後、点検を終えお嬢様を迎えに行くと。

普段から色白の旦那様のお顔が青ざめており、奥様が珍しく怒っていたので、

ユアさんに事情を聞く。

旦那様が領地経営をせずに王都の別邸に居座ると宣言されたことが原因で、

奥様にかなり叱られ、色白の肌が真っ青になったという。


とりあえず、そろそろ出発の時間だとお伝えせねば。


「あら、アル君、もうそんな時間なのね。

 ルースこの人は無視して、行きましょうか。」

「ええ、そうですねお母さま。」


石像のように固まられた旦那様をその場に放置し、

二人に付いていくユアさんに追いつく。



玄関で別れの挨拶をしていると


 「さあ、わが娘よ、しばしの別れに熱烈なハグを!」


と旦那様が迫ってきましたがそれに対してお嬢様は、

 

 「はい!」


と言いながらこの私を身代わりにしようと押し出され、

結果的に旦那様と私がハグをする羽目になりました。

その間に奥様とお嬢様がお別れのご挨拶を済まされさっさと馬車に乗っておられました。

 

 「早く出発するわよ。ぼけっとしてないでさっさとあなたの務めを果たしなさい」

 「申し訳ございませんお嬢様。今すぐに!」


とまあバタバタと出発しましたが、王都までの道のりは、二週間かかるのでのんびり

進んでいきますか。

その間は暇になるので、私のこれまでを振り返ることと致しましょう。

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