第7話 お嬢様の家庭教師? 前編
まだ、太陽が顔を出していないために暗い室内。必要なもの以外ほとんど物がない実用的面が目立つその部屋の主は体内時計が自身の中で暴れ出したのを感じ、まだ離れがたいぬくもりを与えてくれるベットにしばしのお別れを告げる。寝る前に準備しておいた執事服に着替え、まだ薄暗い部屋でその白さが存在感を主張している銀製の懐中時計を枕元から回収し定位置である内ポケットにしまう。
そして、身なりを整え終えると部屋を後にした。
部屋を出ると、サエル達家族が過ごすリビングに入る。といってもすでにサエルはお屋敷に行っており、母であるサラシャが家事をしているだけのようだ。
「おはよう、母さん。俺もお屋敷にもう向かう。」と、普段屋敷では使わない砕けた口調で声をかけ、玄関を目指す。
「お嬢様に迷惑かけちゃだめよ~」と家事を中断することもなくいつもと変わらぬ言葉を投げかけてくる。「はいはい。そんなことしません。」と言いながら、玄関付近の壁にかけてある黒いフロックコートに袖を通し、扉を開きお屋敷までの短い道のりでの冷たい外気とのバトルを始めた。
すでに習慣になった、紅茶の準備を済ませ、食堂で朝食をとると、いつも来る時間にユアさんが来なかったので、そのまま、昨日とは違い一人でお嬢様のお部屋へ紅茶のセットを運ぶ。
その道中、ユアがいないのは、彼女の仕事の関係上偶にあることなので、気にしないことにした。
お嬢様のお部屋の前に到着しノックをするも昨日とは、違い返事がなかったので、「朝ですよ、起こしに参りました。」と言い、入室する。豪奢で天蓋までついているベットの上には、魔法効果が付加されていることで薄いのにとても暖かい毛布によって、頭の頭頂部しか、見えないお嬢様が寝ておられる。いつも思うがお嬢様はほとんど毎朝この状態だが、息苦しくないのだろうかという疑問が浮かぶ。だがそのことは、どうでもいいかと思い、その毛布に手をかけ、優しめにその毛布から現れた華奢な肩を揺する。「お嬢様、朝ですよ。」と女の子特有の心地いい香りがふわっと鼻に襲撃してくるのを無視して、耳元に顔を近づけ言う。
私は、アルが来るいつもの時間よりも5分早く起きるという行動をし、昨日の夜のせいで。朝起きるのが遅れたことに焦りながら鏡とにらめっこし、どこかおかしいとこがないか探す。寝ぐせという髪の毛からの嫌がらせを見つけ、急いで直そうとするも強情な寝ぐせは、自己主張をやめてくれることはなく、人の足音とワゴンのキャスターが回る音が廊下側から聞こえてきたことに気づき、ベットに戻り毛布を深く被った。そのまま寝たふりをし、アルのノックを無視する。そして、1日の中で一番アルが近くに感じる瞬間を逃さないように身構える。何度か耳元で声をかけられることに恥ずかしさが顔にでそうになったため、しかたなく「もう起きたわ…紅茶……」と起きたばかりで不機嫌だという演技をする。
「はい、こちらに準備しておりますので」と室内に置かれた丸テーブルに促す。
紅茶をしばしの間、楽しまれた後「ユアはいないのかしら?」と聞かれたので、「今日は、まだ見ていないですね。別の仕事が入ったのではないでしょうか。」何か考えたのか、少し下を向かれたお嬢様は、「まあいいわ。一人でも支度はできるもの。とりあえず、朝食を持ってきて。その間に着替えるわ。」
お嬢様は、その日の気分で食事をどこで誰と食べるか変えることが多々あり、今日は、自室での食事のようだ。「はい。畏まりました。そのように致します。」と言い、退出する。
その後、何もトラブルが起こることなく朝食を召し上がられたお嬢様は、昨日取得したスキルについての訓練をする予定だということで、住み込みで雇われている家庭教師を呼ぶことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます