第5話 成人の儀 中編



執事長であり、主人公の父親でもあるサエルが使用人控室に入り、室内の状況を確認し、ため息をつく。

「アル、そろそろルースお嬢様を教会にお連れする時間ではないかい?」と優し気な口調だが、少し威圧されているような雰囲気が救世主の登場に歓喜していた表情をサッと青ざめさせ、

「執事長すいません。すぐに取り掛かります!」と言いながら急いで出かける支度をしに部屋を飛び出す。

「アルの変なところで気が抜けるのは、いまだに治らないか…」と今までの自らが施してきた教育に、問題点がなかったか振り返るように言った。それに対して答えたのは、先ほどまでアルを追い詰めていたユア。

「あれはあれで、アルらしくていい…」と表情を普段のものに戻し、アルを追うように部屋を出ていく。

「君も相変わらずアルのことがお気に入りのようだね」と離れていくそのちいさな背中に投げかける。その言葉に、ユアはなにも言わず立ち去る。アルのことを嫌いな人がこの屋敷にいるわけないのだから当然のこと…と思いながら。


私は、馬車の準備が出来ているか確認するため、屋敷に隣接している厩舎に早歩きで向かっていた。その最中にふとお嬢様が出発される時間まであとどれくらいの猶予が残されているのかと、ジャケットの内ポケットから、あのお嬢様が羨んだ時計を取り出す。

カチッとボタンを押し、文字盤をあらわにさせると、そこにはまだまだ余裕がある時間が針によって示されている。そのことに一瞬思考停止するが、時計は朝食を食べた後に調整したばかりであり、時計が嘘の時間を示しているわけではないと考える。そして、父である執事長が、自分に逃げる口実を作ってくれたのだろうと解釈して、足へ急がなくていいぞと指令をだし、ゆっくりと本来の目的である馬車の確認に向かった。


お屋敷の正面玄関の前にゆっくりと馬車を横付けして、厩舎担当の使用人であるサムさんに今日の馬たちのコンディションについて聞いていると、正面玄関の重厚な扉が開き、ユアさんが外に出てくる。その後ろに続いて、ジェスタ様とお嬢様が出てこられる。そのままこちらに向かってくる3人を見て、サムさんにお礼をいいローゼンハイツ家の紋章である砦と広い空をイメージしたエンブレムがその存在を大きく主張する、白塗りの馬車の横にある扉を開け、底面に収納されているステップを展開する。その状態に問題がないか目視で確認したと同時に背後からの足音の近さから、馬車に入るルートを開けるように体を横にずらしながら、振り返り「いつでも出発できます。」と報告をする。

ジェスタは、「うん、よろしく。」と気楽な態度で返事をし、馬車に乗り込んでいく。その後ろから来られたお嬢様に手を差し伸べようと体を向けると、そこには、先ほどご案内した際の明るい表情とは違い何か悩みを抱えたような表情をされたお嬢様がおられた。今触れるわけにはいかないと判断し、いつもと変わらぬ態度で、「お嬢様!お手をどうぞ!」と発言する。


その後、私が馬車の御者を務め、成人の儀を行う会場である教会に到着しました。

到着後の案内をユアさんに任せ、馬車を教会の預り所に預ける。そして、儀式が始まる前に合流しようと急いで礼拝堂に入ると祭壇に最も近い席におられることがわかり、近づくとお嬢様にユアさんが控えているのを見て、ジェスタ様のお傍に控える。「ジェスタ様、無事馬車を預けてまいりました。」

「ご苦労様、しばらく待機でいいよ。来年は君の番だからよく見ておくといい。」  「はい。ありがとうございます。」と言いながら、来年は私ですかと思い、あと1年で自分が大人になるのかという実感が沸き、司祭様のお話に何か儀式について参考になることがないか聞き逃さないように注意することを決めた。

スキルはそれまでに積み重ねてきたことや生まれなどが関係しており、貴族などの環境に恵まれた者は、その立場に見合ったスキルが必要になるということや、今スキルがなくとも自らの努力次第では、増えたり大きく変化することがある。ことがお話からわかった。

ふと、前に座られているお嬢様を視界に入れると、その普段とは全く異なるちいさな背中に、自信を取り戻してもらうべく、お嬢様の耳元で「ルー姉ぽっくないですよ、そのような自信のない態度は」とささやく。それにビクッと反応されたお嬢様が振り返る前に、「お嬢様の番が来ましたよ。」と言って、うやむやにする。

「言われなくてもわかるわよ」とお嬢様は少し嬉しそうな表情を浮かべると祭壇の前まで進んで、水晶玉に手を添えた。するとお嬢様は無事スキルを授かることができたようで、安堵のため息を吐かれた。

その後は、お屋敷で記念パーティーが開かれ、旦那様がいつも通りお嬢様にデレデレされておられる。

  旦那様の口癖は「娘の結婚相手はパパに決まっている!」です。


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