第4話 成人の儀 前編
ユアさんとしばらく紅茶を飲んでいると、紅茶によって少し気を緩めたのか、普段よりも表情に優しさというか、温かさを感じさせながら、
「アル、今日は成人の儀ね。といってもアルにとっては、もう1年先のことだけれど。」とユアが言う。
「ええそうですね。今日はお嬢様、来年は私ということになりますからね。そういえばユアさん。成人の儀について雰囲気やどのようなことをするのか、など何でもいいので教えてくれませんか?」と名案だとばかりに、正面に座るユアに上体を近づける。
それに対してユアはいつもと変わらぬ、眠たげな表情で
「わかった。教えてあげる。けど少し暑苦しい…」と少し嫌そうに言う。アルサレスは言われてからユアの整った顔のまつげが数えれそうなほど近いことに気づき、慌てて元の姿勢にする。
「うん?……うわっすいません、無意識で近づいていました。」
アルの慌てように少し頬を緩めると、ユアは成人の儀について説明を始めた。
「アルは、何歳で成人の儀に参加できるようになるか知ってるよね?」
「もちろんですよ。成人と名前にあるように16歳で参加できるはずです」と、当然のことだといわんばかりに自信満々に答える。
「うん、そのとおり…」とユアは言うと、おもむろにその細くもメイドとして勤めてきたことで、少し筋肉質になりながらも白さを保った腕を上げ、その先に続くちいさな手で、アルの少し暴れん坊なくせ毛が居座る頭を優しくなでる。その突拍子のないユアの温かな行動に、アルは少しの間身を委ねてしまう。その自らに対して恥ずかしくなり赤面し、慌ててユアの手が届かない所まで、椅子ごと後退する。
「ちょっとユアさん!昔間違えてお姉ちゃんと言ったことをまだ引っ張りだしますか!」と、ユアの凶行に対して反論の言葉を返す。
「うん…アルはユアの弟、でしょ?」といいながらそれがさも当然のことだという雰囲気を醸し出し、コテンと首をかしげる。そのユアの圧倒的攻撃に一瞬たじろぐが、無視を決め込み元の話に逃げた。
「成人の儀の参加年齢についての確認はできましたけど、実際教会にいって何をするんですか?」
ユアは少し不服そうに普段よりもジト目度を上げながら、アルの話にしかたなく合わせる。
「教会の礼拝堂でその年に儀式に参加する人とその家族や関係者が集まって、創造神トバリエに祈りを捧げる。その後、教会のお偉いさんが挨拶をしてやっと儀式に移る。」
「ふむふむ、って教会の司祭様のことお偉いさんっていいましたよね今?ユアさんって変なところで教会に反発的ですよね」とユアの言動についてツッコミをいれる。そのツッコミを無視してユアはなにもなかったように説明を続ける。
「儀式については、祭壇に飾られている水晶玉に触れるだけ。それで、スキルを可視化する能力とそのスキルに対する知識、それから人によっては、神からのプレゼントであるギフトが貰える。」説明を終えたユアは、褒めてもらいたそうに少しジト目度を下げ、褒めてオーラをぶつける。その行為に気づき仕方なく言う。
「ユアさん、成人の儀について教えていただきありがとうございます。」その言葉は、ないとばかりにジト目度を上昇させ、テーブルから離れた位置にいるままの私に詰め寄る。そして、ユアが近づいてきたことで、ふわっと香ってくる男にはない癒される香りに少し心臓の鼓動が加速した。このままではユアのペースにのせられると危惧し、少し恥ずかしいのを咳払いで誤魔化しさっきの言葉を訂正する。
「ユア姉ありがとう。」その言葉に対して、ユアはその普段の凪のような顔に若干満足げな表情を浮かべながら、「ユアお姉ちゃんでもいい…」と言う。もう逃げ出したいという気持ちが伝わったのかこの場を救ってくれる存在が、扉を開け入ってくる。
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