第2話 使用人の朝の日常 後編
後編
ユアさんに懐中時計への篤い思いと時計をプレゼントしてくださった当時のお嬢様のお可愛さを10分ほど語り、ふと時計の文字盤を見ると、お嬢様の起床時間が迫っていることが判明しましたので、急いで使用した食器を返却して、お嬢様にお淹れするための紅茶のセットをワゴンに載せ、ユアさんと共にお嬢様のお部屋に向かいます。
コンコンとお嬢様のお部屋の扉をノックします。
「お嬢様ー朝でございます、入らせていただきますよ?」といつもと同じ言葉を、扉を通して中まで聞こえるように少々大きめに声を掛ける。そしていつもならそのまま返事がこないのを10秒ほど待ち、お部屋の中に状態を確認するのですが、なんと部屋の中からお嬢様の声が聞こえてくる。
「いいわよ……ちょっと私を待たせるなんてどういうつもりかしら?」と私が、返事があったことに衝撃を受け硬直していたために、お嬢様の怒りオーラを少し纏った言葉が発せられた。そのオーラによって、茫然としていた自分の思考を再始動させて入室し、こわばった顔を隠すように90度のお辞儀をしながら謝罪を述べる。「申し訳ありませんお嬢様!いつもと変わらずお返事がないものと考えておりましたので、この状況に頭が追い付かず、あのようなことをしてしまいました。」
ちなみにユアさんは何もなかったかのように私がここまで押してきた、お茶のセットが載せてあるワゴンを奪いすでに入室していた。
「まるで私が一人では起きられないような言いようね、まあいいわ。」と少し不満そうに私をその緑の双眸が軽く睨んでくる。
「それよりも、ん」と手を差し出すお嬢様。
そのしぐさに私は、そのしぐさも少々お子様のような雰囲気がしますが、そこもお嬢様のチャームポイントですかねと頭の中で思うことだけに留め、
「いつものお紅茶ですね。少々お待ちください」と入口付近の壁際に控えていたユアさんの方を振り返ると、すでに淹れておいて下さったので、アイコンタクトでお礼を述べ、お嬢様のお座りになっている正面のテーブルにカップをソーサーごと音を立てずに置き、
「お待たせ致しました、それと本日の朝食はご家族揃ってのご用意でよろしかったですよね?」といつもの調子を取り戻した私は、お嬢様に問いかける。
「ええ、それでいいわ」
「畏まりました。それでは、今から15分ほど経ちましたら、食堂の方に案内いたします」
という私の言葉に満足げに頷き、気品あるしぐさでカップにその艶やかなくちびるをつけ紅茶を楽しまれた。
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