第1話 使用人の朝の日常 前編

一章 私がお嬢様に執事としてお仕えしてもう五年が過ぎた

  1話 使用人の朝の日常 前編


大陸歴152年1月

生まれたときから1歳早く育ったお嬢様に何も壁がない本当の姉弟のような家族の接し方をやめた10歳から、主従間係という壁が生まれた生活になり、もう5年が過ぎた。



あ、私はローゼンハイツ辺境伯家に代々仕える執事一族の一人息子として生まれた今年15歳になる転生者です。と言っても神様からチートを授かるなどの定番イベントはありませんでしたし記憶が蘇ったのは六歳の頃でした。ちなみにもうその頃には、お嬢様の遊び相手としてお仕えしていました。ただ遊び相手なんて簡単な言葉で片づけるようなものではないですよ、あの地獄ような、いえ地獄そのものの日々は!!

とまあこんな私の話は置いといて!私のジマンノオジョウサマについてお話しすることにしましょう。今年で16歳になられたお嬢様(ルースグロア・ローゼンハイツ)は、セミロングの赤々とした朝焼けのような明るさの御髪をサイドでふわっと纏めておりまして、お嬢様の動きに合わせてフリフリと揺れている光景は深窓のお嬢様というよりは、お転婆娘といった方が良いでしょうね。

瞳は翡翠のような深い緑色でいつもそのキッとした鋭い目で睨んできますが、ふとした瞬間に表れる慈愛の溢れる暖かな目線がたまらないんですよ。普段から笑顔で過ごされると良いのですが。


え、お嬢様の体型ですか……身長はいつの間にか追い越してしまいましたので、今は私(一七七センチ)の肩くらいに頭がきますかね。その他については、今後の成長に期待と…



鳥たちがようやく朝の到来をそのちいさな体躯からは想像できない大きな鳴き声で告げ始めた頃。

コツコツと、靴が発する音を私は耳に入れながら、十年以上歩いてきた屋敷と我が家の間の石畳でできた細い道を踏みしめる。

そして、裏手の勝手口から屋敷内に入り一番に向かうのは、私が直接お仕えしているお嬢様のお部屋ではなく、厨房です。ここの厨房はさすが辺境伯家といったところか、10人の屈強な料理人がすでに朝食の準備をしている。

なぜ厨房に寄っているかって?お嬢様は、起きてすぐはものすごくご機嫌がすぐれないので、気分が落ち着くような配合の紅茶をお出ししているのです。もちろん、この習慣は私が10歳の頃からお嬢様のわがままで私がお嬢様の朝のお茶出し専属になっています。当時は、よくこぼしそうになり、旦那様や父である執事長からお嬢様に、メイドや他の者に任せたほうがいいのでは?というお話があったそうですが、わがままというお嬢様の特権が発動したことで今に至り、これからも続くのでしょう。

さて、紅茶の準備もできましたし、さきに朝食を頂いておきましょう。この屋敷では、基本食事は使用人が先に食事をしておくことで一種の毒見に近いことをしております。朝の食事は、厨房に備えられている大型のオーブンで焼き上げた、ふわふわのパンを主食に、その日ごとに主と同じ食糧を使用した料理になります。

厨房の横にある使用人用の食堂で手早く朝食を済ませ、ふとジャケットの内ポケットにしまっていた銀製の懐中時計を取り出し時間を確認する。まだ、時間に余裕があることがわかったので、そのまま、時計のお手入れをすることにした。


 「おはよう、アル。向いに座らせてもらう」とお嬢様専属メイドのひとりであるユアさんがボソッと声をかけてくる。ユアさんは、お嬢様より三つ年上の物静かなクール系美女ではあるが、普段その透き通った淡い水色のまるで澄んだ湖から取り出したかのような瞳は半分ほど閉じられた瞼によって隠されており、いつも少し眠そうなもしくはジト目と表現できる表情をされていることが多い。また、肩の少し下まで伸ばされた大海の大海原を彷彿とさせる蒼い髪が彼女自身が椅子に座ったことでそれに合わせて靡いていた。もちろん白いカチューシャもすでに着用しており、彼女の髪色と相まって波がそのまま止まっているのではないかと想像してしまったのは、今日だけではない。また、メイドの作業着、いわゆる黒を基調にしたロングスカートのワンピースと控えめに装飾された純白のエプロンを纏っており、ユアさんの体のラインはその黒と白の要塞によって隠されている。だが、お屋敷に務めるメイド方の会話を参考にするなら、要塞の中には、化け物がいるとのことだ。

 「おはようございます、ユアさん」と人懐っこい笑顔を無意識に浮かべて挨拶を

  かえす。

すると、珍しくフフッと微笑して「その時計ほんとに大事にしてるね」と。

 「ええ、お嬢様から初めて直接頂いた物ですので、私が死ぬときまで、いえ子孫に家宝として、残してもらうので!」と大真面目顔で答える。


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