元ロボット管理人って異世界で需要ありますか?

4696(シロクロ)

プロローグ



とある王国の、辺境伯家の名に恥じない堅牢なお屋敷のある一室。

夜のとばりから逃れるように煌々と照らされた空間に、

シンプルだが貴族特有の雰囲気の服を纏ったまだ青年の域をでない男が椅子に体を預けるようにかけていた。

そしていわゆる執事服と呼ばれる装いに身を包んだ初老の男が執務机を挟んで相対していた。

その執務机上にはそぐわないであろう籠が中央に置かれており、ときおりその籠の上にかけられた布がうごめく。


「ジェスタ様、この子には、あなた様と同じ血が流れておりますゆえ、我が家の

 養子とするのはやはり反対致します。」と執事のサエルが苦々しい表情で言う。


「だが、妹の残した最後の宝だからこそ、表に出すわけには、いかんのだ」と

 貴族然とした男ジェスタは沈痛な面持ちで己に言い聞かせるように言った。


「ですが、他にも手段があるはずですよジェスタ様」と困ったように言う。


「そうだな、だがやはり手元において育てるには、君の家の方がいいと

 確信している。

 私にとっても、この子にとっても、な。

 まさか、この子を遠ざけるような選択は君も選ぶことはできまい?」


「そんな私が冷血な男に見えますか?ええ、そんなことできませんよ。」と言いつつ大きく息を吐く。そして、ピンと姿勢をさらに正すと、呆れ顔を真剣な表情に直し、

「畏まりました、この子には、私の命に代えましても平穏な生活を約束致します。

 ですが、我が家はあなた様にお仕えする使用人一族であります。

 この子を辺境伯家に恥じない執事にすることが私にできることでありますよ?」


「ああ、かまわんさ。その方が都合いい、養子の件については私個人とお前の

 関係だから頼むことだぞ。この子の出自については、できる限り伏せておいて

 くれ。」


「もちろんで御座います。早速妻に見せてきますよ。」とさっきまでの重く苦しい空気を払拭するかのようにサエルが言った。


「そうだな、改めてよろしく頼む。ああそうだ、今年一歳になる娘にも紹介し

 なければな。」


まだ生後半年ほどの小さな体で長くて辛い旅をしたのだ、


   今後の人生に幸あらんことを…と


      窓の外の神々しい光を放つ白き月に祈った。




大陸歴137年2月のことであった。






その一年前である大陸歴136年7月

世界情勢は大陸の中心であり賢帝であった皇帝が崩御したことで、大帝国の中に戦乱が巻き起こった。

その渦中にあった一人の皇族は対外侵略を功として皇帝になると、皇族のみで構成された会議で宣言した。

その矛先として侵略したのは、神のお膝元であるとされてきた霊山を中心として聖域指定されている地域であった。

その悪意に満ちた矛先が突き刺さったのは、その宣言からしばらく過ぎた11月のことである。

この地域には、神に近い者たちとして、吸血鬼やエルフ、ドワーフ、獣人などの国があったが、この年を境に戦乱によって姿を消していった。

なんの宣戦布告もなしに突如としてこの暴挙に出た大帝国の行動に聖域の各国と親交があったレザルド王国は、遠く離れた王都に情報が入るのが遅く、援軍を送るも間に合うことはなかった。

吸血鬼の王が治めていた国(ブラッティア)の首都に到着したレザルド王国軍の総指揮官を務めるジェスタ・ローゼンハイツは、目の前に広がる暗い夜のとばりを眺め人の温かい生活の明かりが、かき消され人の悪意が嵐のように過ぎ去った後を

物語る荒廃した街並みに、自らの爪が食い込み、血が滲むほど強く握りこんだこぶしの行く先がないことを、後悔した。

そして、三年前にブラッティアの王子の心を射止めて嫁いでいった妹であるサレスティアがこの世にいないことを、人気のないその豪華さが虚栄のような雰囲気を漂わせる、血にまみれた真っ暗な玉座の間で直面することになる。

その場には、三年前世界中の幸せが詰まったような結婚式が行われた同じ場所で自分たちが持つ明かりだけが照らし出した、寄り添うように倒れている首のない二人の遺体だけが残されていた。


その場に立ち尽くすローゼンハイツ家の家臣たちと遅れて駆け付けたジェスタの心には、形容のしようもない憎しみとやり場のない怒りでいっぱいだろう。

その誰もが目を背けたい事実を、消し飛ばそうとするかのように、生存者発見の報告が彼らの耳にとびこんでくる。

急ぎその者がいるという現場に行くと、その人物はブラッティアで近衛として王族に仕え、若くして隊長という大役に就いた英雄であり、妹の案内兼護衛として我が屋敷に出向いてくれた者で名をルーセントといったか…だが、今はかなり消耗しているようでその時の力強い覇気は感じない。その者は、首都の城壁を背に、なにかを守ろうとした立ち姿で剣をこちらの兵士に向けて構えており一触即発の空気があたりに張り詰めていた。


「ルーセント!私だ!ジェスタ・ローゼンハイツだ!この顔を覚えているだろう!」と家臣たちが抑えるのを無視してずかずか近づいてゆく。

すると私に気が付いたようで、ルーセントは安堵の表情を浮かべながらその場に崩れ落ちた。私は慌てて抱き留めると、家臣たちに捜索を続けるように指示し、ルーセントを野営地に送るように言った。


その後、朝の優しくも力強い太陽の輝きがあたりを照らし出したタイミングで一度、街の外に展開している野営地に戻ると、ルーセントが意識を取り戻し、この私に言いたいことがあると伝令兵が伝えにきた。

私は自分の天幕に戻る前にルーセントがいるという天幕を寄ることにして、

歩を進める。

そして、その天幕に入るとルーセントがその疲労困憊の身を無理に起こそうと

している。


「ルーセント無理をするな!そのまま寝ているんだ」と強めの語気で命令する

「ぐ、すいませんこのような姿で」と苦悶の表情で再びベットに横たわる。

「さて、私に言いたいこととは?」と同い年の砕けた口調で問いかける。

すると少し破顔した表情を真剣な表情に切り替え、答えた

「ジェスタ殿の妹君が、最後にお残しになったお子アルサレス様が、生きているはずです」と…


話の詳細をまとめると、近衛騎士のある一隊に極秘裏の任務としてサレスティアが直接命令したこと、その内容はアルサレスを兄であるジェスタの元に護送することであった。

その話を聞いたジェスタは、軍の指揮権を別の貴族に引き継ぐと、寝る間を惜しんで夜の行軍でたどり着いたブラッティアを今度は朝焼けを背に領地へと帰還を急いだのであった。




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