第20話 幸せって素敵ね
「ねぇ、何か心当たりはないの?」
私が尋ねると、彼女は首を横に振って否定した。
どうやら何も知らないらしい。
となると、ますます謎が深まるばかりだなと思いつつも、
とりあえず様子を見ることにしたのだった。
それから数日が経過した頃、またしても事件が起きたようだ。
今度は別の人物が殺されてしまったのである。
しかも、またしてもヒロイン役の女性だったことから、誰もが恐怖を感じていたに違いないだろうと思う。
(いったいどうなっているのよ!?)
さすがにこれ以上は看過できないと判断した私は、警察に相談することにしたのだが、
なかなか取り合ってもらえなかったため途方に暮れていたところ、
ある人物が現れたことで状況は一変することになるのだった。
その人物こそ私の上司である課長だったのだが、彼の話を聞いているうちに少しずつでは
あるが事件の全貌が見えてきたような気がしたのである。
まず最初に殺された女性は映画関係者であり、ヒロイン役に抜擢されたことがきっかけで、
主人公役の男性と親しくなったそうだ。
しかし、その後、二人は別れることになり、女性は別の相手と結婚することになったのだという。
ところが、それから数年後、再び再会する機会があったことから交際が再開し、
やがて結婚することになったのだそうだ。
つまり、二股をかけられていたということらしいのだが、それでも彼女は彼を愛していたらしく、
幸せな日々を過ごしていたのだという。
だがある日のこと、突然彼が失踪してしまったというのだ。
理由はわからないままだったそうだが、その後もずっと彼の行方を捜し続けていたらしい。
そんなある日のことだったという。
彼女の前に現れたのは見知らぬ男だったそうで、彼はこう言ったそうだ。
「あなた、彼のことを愛しているんでしょう?
だったら、復讐したくない?」
彼女は迷ったそうだが、結局誘惑に負けてしまったそうだ。
そして現在に至るというわけである。
(なるほど、そういうことだったのね)
彼女の話を聞いて納得した私は、すぐに行動を起こすことにしたのである。
まずは警察に連絡を入れようとしたのだが、なぜか繋がらなかったため断念せざるを得なかった。
そこで次に思いついたのは友人の存在である。早速電話をかけてみると繋がったので
事情を説明して協力を要請したところ快諾してくれたのだ。
(よしっ! これで何とかなるかも)
そう思った矢先のことだった。
突然背後から声をかけられたことで驚いてしまう私だったが、
振り返るとそこに立っていた人物を見てさらに驚愕することとなったのである。
なんとそこにいたのは主人公の男性だったのだから無理もないだろう。
彼は微笑みながら話しかけてくると、とんでもないことを言い出したのだ。
「やっと会えたね」
「え? どういうことですか?」
意味が分からず困惑していると、彼は驚くべきことを口にしたのである。
「実はね、僕はずっと君のことを探していたんだよ」
それを聞いて嫌な予感を覚えた私は、その場から逃げ出そうとしたのだが、
彼に腕を掴まれてしまい逃げることができなかったのだ。
それどころか強引に抱き寄せられてしまったことでパニック状態に陥ってしまうことになったのである。
(嫌ぁっ! 離してぇっ!)
そんな願いも虚しく、彼は耳元で囁きかけてきた。
「どうして逃げようとするんだい? 君は僕のことを愛しているんだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍るような感覚が襲ってきたが、
同時に胸の奥底から熱いものが込み上げてくるような感覚もあったような気がした。
(違う……これは何かの間違いだわ)
必死に否定しようとするものの、思うように声が出ないどころか
呼吸すらままならない状態だったためどうすることもできなかったようだ。
「ふふ、可愛いね」
そう言って微笑む彼の顔を見ているうちに頭がボーッとしてきた私は、
何も考えられなくなったまま身を委ねることにしたのである。
その後の記憶はあまり残っていないのだが、
気がついた時にはベッドの上で下着姿になっていたことだけは覚えている。
しかも隣には彼の姿があり、私を抱きしめながら眠っていたようだが、
不思議と嫌悪感はなかったように思う。
むしろ幸せな気分に包まれていたくらいだし、
このままずっと一緒にいたいと思うようになっていたほどだったのだから不思議である。
(あれ? なんでこんなことになってるんだっけ?)
そんな疑問が浮かんだものの、すぐにどうでもよくなってしまったため考えるのをやめることにしたのだった。
(まあいいか……今はそんなことどうでもいいや)
そう思いながら彼に抱きつくようにして身を寄せると、自然と笑みが溢れてきたような気がしたが、
それも些細なことだと割り切って考えることを放棄した私は再び眠りにつくことにしたのだった。
「おはよう、よく眠れたかい?」
目が覚めた時、最初に目に飛び込んできたのは彼の笑顔だった。
その瞬間、私は全てを思い出してしまったのだが、不思議と後悔はなかったように思う。
むしろ幸せを感じていたくらいなので不思議な気分だったくらいだ。
(ああ……そうか)
そこでようやく理解したのである。
(私はこの人のことが好きなんだわ)
そう思った途端、自然と涙が溢れ出してきたのだが、
それを拭うことすら億劫に感じてしまうほど彼に夢中になっていたようだ。
そんな私を優しく抱きしめてくれた彼は耳元で囁いた。
「愛してるよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じた私だったが、
同時に安心感を覚えたことで心が満たされていくような感じがしたこともまた事実であると思うのだった。
それからしばらくの間は幸せな時間が続いたわけだが、
いつまでも浸っているわけにはいかないため行動を起こすことにしたのである。
まずは服を着替えることから始めたわけだが、その際に彼の視線を感じたことで、
自分が見られているということを意識してしまい恥ずかしくなったことは言うまでもないだろう。
(うぅ……恥ずかしいよぉ)
そんなことを考えている間に着替え終わったため、次は朝食の準備をすることにしたのだが、
その時に彼が手伝いを申し出てくれたおかげでスムーズに準備することができたので助かったと思ったものだ。
(やっぱり優しい人なんだな)
そんなことを考えながら幸せな気分に浸っていた私だったが、
ふと我に返ると恥ずかしくなってしまったため慌てて誤魔化したのである。
そんな様子を見ていた彼は微笑みながら頭を撫でてくれたが、
それが余計に恥ずかしさを募らせることになってしまったようだ。
顔が真っ赤になっているのがわかるくらい熱かったし、
心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いていたように思う。
それでも何とか平静を装って振る舞うことができたのは奇跡に
近いのではないだろうかと思っているくらいだが、実際のところはどうだったのだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます