第19話 映画の事
「おはよう、朋絵」
と声をかけられ、ますます恥ずかしくなってしまい、
俯いていると、彼は続けて言った。
「昨日は、楽しかったかい?」
その質問にどう答えればいいかわからず、
黙り込んでいると、彼はクスッと笑った後で、耳元で囁いた。
「じゃあ、また一緒に行こうか」
それを聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じると同時に、
嬉しさが込み上げてくるのがわかった。
やはり私はこの人のことが好きなんだと改めて実感させられるのだった。
その後、彼と色々な話をした後、出かけることにした私は、
待ち合わせ場所へ向かうことにした。
そこで待っていると、程なくして彼がやって来たので、二人で街へ繰り出すことにする。
今日はどこへ行こうかと考えていたところ、不意に手を握られたのでドキッとしたが、
そのまま指を絡められてしまったので余計に意識してしまうことになった。
(うぅ、やっぱり慣れないなぁ……)
そう思いながらも彼と一緒にいられることが嬉しかったため、つい口元が緩んでしまうのだった。
デートを満喫した翌日、会社に行くと同僚達から祝福の言葉を浴びせられたり、
冷やかされたりすることになってしまったのは言うまでもないだろう。
それでも嫌な気分にはならなかったし、むしろ幸せな気持ちになれたので
良しとしようと思う私なのだった。
その夜、ベッドで横になっている時にふと思い出したことがあったので、
彼に聞いてみることにした。
それは昨日見た映画のことだ。
この映画を観た後に感じた疑問をぶつけてみたところ、
予想外の答えが返ってきたことに驚かされることになるとは、
この時はまだ知る由もなかったのである。
「あの映画って、原作があるんだよね?」
私が尋ねると、彼は頷いて答えた。
「そうだよ、知らなかったのかい?」
そう言われて初めて知ったのだが、
どうやら結構有名な作品らしいことがわかった。
ただ、内容が内容だけにあまり表沙汰にしたくないという気持ちも
わからないではないと思ったりもしたのだが、それはさておき本題に入るとしよう。
まず最初に気になった点としては、なぜあんな結末になったのかということだ。
普通ならばあり得ない展開であり、どう考えても不自然すぎるとしか思えないからである。
それに加えてストーリー自体も陳腐としか言いようがないものだったと思う。
一言でいうなら最低最悪と言ってもいいのではないだろうか。
少なくとも私の好みではなかったことだけは確かであると言えるだろう。
だが、だからといってつまらないわけでもないことも事実なのだ。
その理由は何なのかと考えているうちに一つの結論に至った。
つまり、あれはフィクションではなくノンフィクションではないかと考えたのだ。
そう考えると色々と辻褄が合うような気がしてならなかったのである。
実際、主人公の行動を見ていて違和感があったのも事実だし、
何よりラストシーンの解釈が全く違ってくるように思えたからだ。
もしそうだとしたらとんでもないことになるのではないかと思うと恐ろしくなってしまったのだが、
それと同時に興奮している自分に気づいた時にはもう手遅れだったかもしれない。
(いや、そんなことあるはずないじゃない!)
自分に言い聞かせつつも、一度芽生えた疑惑は消えることはなく、むしろ大きくなっていく一方だったのだ。
その後も考え続けた結果、とうとう我慢できなくなった私は、
思い切って本人に聞いてみることにしたのである。
そしてその結果、案の定当たっていたことが判明したというわけだ。
しかも当の本人は、それを認めているのだから驚きである。
最初は信じられなかったものの、
実際に証拠を見せられては信じるしかないと思い知らされることになった。
まさか自分が当事者になるとは思ってもみなかった出来事なのだが、
不思議と嫌悪感はなく、むしろワクワクしながら成り行きを見守ろうと心に決めた私なのでした。
さて、ここで問題となるのが、誰が主人公を演じるのかということである。
当然、主役の座を狙って立候補する者もいたわけだが、
結果は予想通りの展開になったといえるだろう。
何故なら、立候補した全員がヒロイン役を希望していたからだ。
(まぁ、そうなるわよね)
私も納得してしまったくらいだし、仕方ないと思うべきだろう。
それに、私自身にも興味がないわけではないのだ。
だからこそ立候補したい気持ちもあったのだが、
さすがに遠慮しておいた方が良さそうだと思ったので諦めたのだった。
その代わりといっては何だが、
友人達に頼み込んで代役を務めてもらうことにしたのである。
ちなみに、彼女達には事前に事情を説明し、承諾を得ていたので問題はないはずだ。
(それにしても、みんなすごい演技力よね)
そんなことを思いながら見ているうちに、
いよいよクライマックスを迎えることとなったようだ。
果たして、どんな結末を迎えるのだろうかという期待感が高まる中、ついにその瞬間が訪れた。
なんと、主人公が死んでしまったのだ。
いや、正確には殺されたといった方が正しいだろうか。
犯人はすぐに見つかったようだが、
結局捕まってはいなかったようなので、
まだどこかに潜んでいる可能性があるということになる。
となると、しばらくは安心できないということだろうか。
不安を覚えずにはいられなかったが、今はどうすることもできないため、
このまま見守るしかなさそうだ。
その後、何事もなく数日が経過した頃、事件は起こった。
今度は別の人物が殺されてしまったのだ。
その犠牲者というのが、またしてもヒロイン役の女性だったことから、
誰もが恐怖を感じたに違いないだろう。
(一体どうなってるのよ!?)
そんなことを考えていた時、突然声をかけられたことで驚いてしまった私は、
思わず悲鳴を上げてしまったのだった。
声をかけてきた人物を見て更に驚いたのだが、よく見てみると、
そこにいたのは同僚の女性社員だったのである。
(びっくりしたぁ……心臓が止まるかと思ったわよ)
彼女は笑いながら謝ってきたので、ひとまず許してあげることにする。
それよりも今は状況を把握することの方が先決だと判断したからだ。
そこで彼女に尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきたので驚いてしまった。
というのも、彼女も私と同じように映画のエキストラとして参加したことがあるというのだ。
それを聞いて納得した私は、同時にある可能性についても考えていた。
もしかすると、この一連の事件の裏には何者かが関わっているのではないかということである。
そうでなければ説明がつかないことばかりだからだ。
例えば、どうして彼女ばかり狙われるのかという点について考えた場合、
彼女が何か重要な秘密を知っている可能性が高いと思われるからである。
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