第18話 怖い思い
「美味しいね」
私が言うと、彼も同意するように頷いてくれる。
その後も会話が弾み、楽しい時間を過ごすことが出来た。
(はぁ、やっぱりこの人と一緒にいる時が一番幸せだなぁ……)
しみじみと思いながら、デザートを食べ終えると、
お会計を済ませるためにレジへ向かった。
そうするとそこには、見知った顔があった。
(あれっ、あの人は確か……?)
そう思った瞬間、向こうもこちらに気づいたようで声をかけてきた。
「あれ、先輩じゃないですか! こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
そう言ってきたのは、私の後輩である鈴木静香だった。
どうやら彼女も一人のようだ。
それにしても、まさかこんなところで出会うとは思わなかったので、かなり驚いていると、
それを見た彼女は不思議そうな顔をしていた。
そこで、事情を説明することにする。
そうすると、納得してくれたようだった。
その後、彼女と少し話をして別れた後、再びデートの続きを楽しむことになったのだった。
(ふぅ、楽しかったけど疲れちゃったなぁ)
そんなことを考えながら帰路についた私は、ベッドに横になると、
そのまま眠ってしまったのだった。
翌朝、目が覚めると時計の針は9時を指していた。
いつもならとっくに起きているはずの時間帯だが、今日は珍しく寝坊してしまったようだ。
とりあえず朝食を摂ろうと台所に向かうと、テーブルの上に書き置きがあることに気づいた。
見てみると、それは彼からの手紙のようだった。
内容を読んでみると、どうやら急な用事が入ったらしく、
朝早くに出掛ける必要があったため、起こさずに出かけていったということだった。
(そっか、仕方ないよね)
そう思いながら一人で朝食を食べることにする。
トーストに目玉焼き、それにサラダといった簡単なものだが、
これがなかなかおいしかったりするのだ。
それらを平らげた後、食器を片付けてから出かける準備をする。
とは言っても、着替えたり髪を整えたりする程度なので、
それほど時間はかからないのだが、ふとあることを思いついたので行ってみることにした。
向かった先は近所の公園で、散歩するにはちょうどいい距離にあるところだ。
いつもは通り過ぎるだけだったのだが、今日は入ってみることにした。
そうするとそこには意外な光景が広がっていたのである。
(うわぁ~、すごい人だな)
思わず声を上げてしまうほどの人混みだった。
どうしてこんなにも人がいるのだろうかと思い辺りを見回してみると、その理由はすぐに分かった。
何故なら、今日ここでイベントが行われることになっていたからである。
なんでも有名なアイドル歌手やお笑い芸人などが来るということで、
それを目当てに来た人々が多かったのだろうと思う。
実際、私もそのうちの1人だったわけだしね。
とはいえ、これだけの人だかりの中に入っていく勇気はなかったのだが、
このまま帰るわけにもいかなかったので、仕方なく近くで待つことにした。
しばらくして開演の時間になったようで、ステージ上に司会者が登場して挨拶を始めたようだ。
それに合わせて観客たちが歓声を上げるのが見えたため、
おそらくメインゲストが登場したのだろうと思われた。
すると案の定その通りだったようだ。
登場したのは、今話題の人気女優である三浦香菜という女性で、
テレビでよく見かける顔だということもあり、
知らない人はいないのではないかというくらいの有名人だ。
そんな人がこんな小さなイベントに出るのかと思ったが、
それだけ注目されているということなのだろう。
その証拠に、観客たちの熱気はどんどん高まっていく一方だし、
彼女の登場に合わせて曲が流れ始め、それに合わせて踊り出す人もいるくらいだった。
まさにお祭り騒ぎといった感じだろうか。
(わぁ、すごいなぁ、なんか楽しそう)
見ているだけで楽しくなってくる光景だったが、
いつまでもこうして眺めているわけにもいかないので、
そろそろ帰ろうかと思ったその時、事件は起こったのである。
突然一人の女性が悲鳴を上げたのだ。
何事だと思ってそちらを見ると、なんと彼女の首に刃物が突き刺さっているではないか。
そして、そこから流れ出る血を見て、一気に血の気が引いていくのを感じた。
次の瞬間、彼女の身体が崩れ落ちていくのを見て、慌てて駆け寄るが間に合わないことは明らかだった。
しかし、次の瞬間には、別の人間が倒れていたのだ。
見ると、その女性の手にはナイフが握られており、自分の首を刺していたことがわかる。
さらに、彼女の後ろには、同じく血を流して倒れているもう一人の女性の姿があったことから、
仲間割れの末、殺し合いに発展したのではないかと考えられた。
結局、彼女たちがどうなったのか知ることはできなかったが、
きっと今頃は二人とも死んでいることだろうと思う。
その後、警察がやってきて現場検証を始めたため、
近づくことができなくなってしまったからだ。
そのため、私はその場を離れるしかなかったわけだが、
どうしても気になってしまい、しばらくの間その場に立ち尽くしていたのだった。
(はぁ、ひどい事件だったなぁ……)
そんなことを考えつつ、帰り道を歩いているうちに家に到着したので中に入ることにした。
玄関を開けて中に入ったところで、ちょうど彼も帰ってきたところだったようで、
ばったり鉢合わせする形になってしまったのだ。
彼は驚いた様子で話しかけてきた。
「朋絵、どうしたんだい、こんなに早く帰ってくるなんて珍しいじゃないか」
と聞かれたので、私は正直に答えることにした。
そうすると彼は納得したように頷いてから言った。
「なるほど、そういうことだったのか、大変だったみたいだね」
と言って優しく抱きしめてくれたことで、心が安らいでいくのを感じた私は、
甘えるように身を委ねたのだった。
それからしばらくした後、私達はリビングへ移動することにした。
そこでお茶を飲みつつ一息つくことにする。
その間もずっと手を繋いでいたので、まるで恋人同士のような気分だった。
(あぁ、幸せだなぁ……)
そんなことを思いながらぼんやりとしていると、不意に彼が尋ねてきた。
「それで、これからどうするんだい?」
と言われてしまったので、
「えっ? 何がですか?」
と聞き返すと、彼は真面目な顔で言ってきた。
どうやら私が落ち込んでいるのではないかと心配してくれているようだ。
もちろんそんなことはなかったのだが、折角だから甘えてみることにした。
彼の胸に顔を埋めるようにして抱きついてみる。
そのままじっとしていると、背中を撫でてくれる感触が伝わってきたので嬉しくなった。
もっとしてほしいと思ってしまった私は、自然と身体を寄せてしまっていたようだ。
それに応えるように彼も強く抱きしめてくれたことで安心感を覚えた私は、
そのまま眠りについてしまったのだった。
翌朝目を覚ますと、目の前に彼の顔があったので驚いてしまう。
どうやらあのまま眠ってしまったらしいことに気づいた私は、
恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまったのがわかった。
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