第17話 彼とのデート
「何観ようか?」
私が尋ねると、彼はしばらく考えた後、こう答えた。
「そうだ、あれにしよう」
そう言うと、一つのタイトルを指さした。
それを見た瞬間、私は思わず声を上げてしまった。
というのも、その映画というのがホラーだったからである。
「えぇ~、なんでぇ?」
と文句を言う私に、彼は平然とした顔で答える。
「たまにはこういうのも良いかと思ってね」
そういうものなのかと思いながら、仕方なく従うことにするのだが、内心不安でいっぱいだった。
(大丈夫かしら?)
そんな心配をよそに、上映が始まった。
ところが、始まってすぐのうちはなんともなかったのだが、徐々に物語が進むにつれて怖くなってきたのだ。
「きゃっ!」
急に出てくる幽霊を見て悲鳴を上げたり、暗闇の中で何かが動いている気配を感じたりする度に、
驚いてしまったのである。
だが、その度に隣にいる彼が手を握ってくれたりしてくれたおかげで何とか耐えることが出来たのだが、
いよいよクライマックスに差し掛かった時、最大の恐怖が訪れたのだった。
主人公は友人たちと共に、廃墟となった洋館へと足を踏み入れたところから始まる。
そこはかつて有名な女優が住んでいたと言われている場所だったが、
今では誰も住んでいないとのことだった。
そこで彼らは、探検気分で中に入っていったのだが、
途中で一人の友人が行方不明になってしまったことから事態は急変する。
皆で探し回った結果、地下室で遺体となって発見されることになった。
しかも、それだけではなかった。
なんとそこには、まだ他にも人がいたような形跡があったのだ。
一体誰がいたのか?
彼らは謎を解き明かすために再び屋敷の中を探索し始めるが、次第に様子がおかしくなっていくことになる。
友人の遺体を見つけた辺りまで戻ってくると、何かを引きずるような音が聞こえてきたため、
警戒しながら進んだ先に待っていたものは信じられないものだった。
そこにいたのは、変わり果てた姿になった友人だったのだ。
その後、彼らはさらに奥へと進んでいくうちに、次々と仲間を失っていき、
最後に残った主人公も追い詰められてしまう。
もう駄目だと思った瞬間、突然目の前が真っ暗になり、意識を失ってしまった。
そして目が覚めた時には病院のベッドの上にいたのだが、
何があったのか全く覚えていなかったという展開である。
怖いシーンが続く中で、ついにその瞬間がやってきた。
それは主人公が何者かに襲われるシーンで、腕を掴まれて押し倒されてしまったのだ。
次の瞬間には、首筋に噛み付かれてしまい、そこから血が噴き出す場面が映し出されると、
とうとう我慢できずに叫んでしまったのである。
しかしそれも無理はないことだろう。
何せ目の前に映し出された映像だけでも相当ショッキングなものだったからだ。
それに加えて悲鳴まで上げてしまったせいで、周囲の客からも注目を浴びる羽目になってしまったのだからたまらない。
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯いていると、彼が耳元で囁いた。
「朋絵、静かにしないと他の人に迷惑だよ」
と注意されてしまったので、渋々頷くしかなかった。
それからしばらくは、何事もなく時間が過ぎていったのだが、
終盤にさしかかるとまた新たな犠牲者が現れたようだ。
今度は若い女性のようで、その美しい顔に似合わず、
素肌を引きちぎられた状態で息絶えていた。
(うぅ、グロすぎるよ)
あまりの衝撃的な光景に言葉を失っていると、突然後ろから肩を叩かれてビクッとしてしまった。
振り返ると、そこに立っていたのは彼で、心配そうにこちらを見つめている。
「大丈夫かい、朋絵?」
と声をかけられて我に返った私は、慌てて取り繕うように言った。
「え、ええ、大丈夫よ、それよりもうすぐ終わりそうね」
そう言いながらスクリーンに目を戻すと、ちょうど犯人が明かされるところだったようで、
犯人の正体を見た観客たちは驚きを隠せなかったようだ。
なぜならその人物とは、主人公の恋人であり事件の目撃者でもある女性だったのだから無理もないだろう。
彼女の名前は田中美奈子といい、事件当日も一緒に居たところを目撃されている人物でもあったらしい。
そんな彼女がなぜ殺されなければならなかったのか?
犯人は誰なのか?
謎解きをするべく捜査を始めた彼らだったが、やがてある共通点を見つけることができたことで
真相が明らかになっていくのだった。
(あ、これってもしかして……)
なんとなく嫌な予感を覚えながらも最後まで見終えたところで劇場内が明るくなったため、
私達はそそくさと退散することにした。
正直言って、最後の方は映画の内容に引き込まれてしまっていたために、
細かいところまで覚えていない部分もあったが、それでも充分に楽しむことができたと思っている。
特にラストシーンなどは感動的だったと思うし、涙腺が緩んでしまうほど泣いてしまったほどだ。
(あぁ、面白かったぁ~! やっぱりホラー映画も悪くないわね)
そんなことを思いながら席を立とうとした時だった。
「朋絵、待ってくれ、キスしてあげるよ」
「えっ!?」
突然のことに驚いたが、断る理由もない私は素直に応じることにした。
目を閉じて待っていると、唇に柔らかい感触が伝わってくる。
最初は軽く触れるだけのキスだったが、徐々に強く押し付けられるようになり、
最終的には貪るように激しく求め合った後、ようやく解放された。
その時にはもうすっかり息が上がってしまっていたけれど、不思議と嫌な気分にはならなかった。
むしろ心地よいとさえ思えたくらいだ。
そうして余韻に浸っているうちに、いつの間にか映画館を後にした私達なのであった。
(うーん、ちょっと疲れたかも?)
心の中でそう呟きながら歩いていると、不意に彼が言った。
「この後どうする?」
そう言われて一瞬悩んだものの、すぐに答えを出した。
もちろん答えは決まっているからだ。
「せっかくだから、どこかで食事でもしていかない?」
私が提案すると、彼は笑顔で頷いてくれたので、そのまま二人でお店を探すことにした。
しばらく歩いているうちに良さそうなお店を見つけたので、そこに入ることにする。
店内は落ち着いた雰囲気で、とても居心地が良い感じだったので、すぐに気に入った。
メニューを見ると美味しそうな料理がたくさんあったので、迷ってしまうほどだったが、
最終的に決めたのは私ではなく彼だった。
彼は最初から決めていたらしく、迷うことなく注文を済ませたのだった。
(まぁ、いいか、こういうところも彼らしくて好きだし)
そんなことを考えているうちに料理が運ばれてきたので、早速食べ始めることにした。
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