2019年11月/5冊 売るべきか保有するべきか、それが問題 

 足しげく通う古本屋で、目当ての本を数冊見つける。颯爽とレジに向かう。

 財布から紙の束を12枚取り出し、すっとトレイにのせる。

 店員が「おおっ」という顔をする。私はドヤ顔になる。

 キャッシュレスが推奨されるご時世に、クレジットでもない電子マネーでもない、紙の束をドドン!と差しだす自分。かっこいい……(酔)。

 をするたび「ありがとうございました!」と口にする店員に、一目置かれてる気がする。心なしか上から目線で「うむ、ご苦労」みたいな……おまえは、殿様か。

 いえ、私は【株主様】でございます。えへん!



 ブックオフの株主になって1年。待ちに待って待って待って待ちくたびれた《株主優待お買い物券》が8月にやっと届いたのである。 

100株以上保有で、3年未満だと2000円相当、3年以上だと2500円相当の買い物券が

200株以上保有で、3年未満だと3000円相当、3年以上だと4000円相当の買い物券が

もらえる。それをひっさげての、冒頭の行動というわけだ。



 値上がり益はまるで狙っておらず、優待目当てで100株を購入したのだが――。

 無欲で買い求めたのが幸いしたのか、今年の夏に入った頃から、株価がジワリジワリと上昇しはじめた。8月19日には、なんと上場来高値を記録してしまう。

 証券口座を見て唖然とした。2018年9月に754円で買った株が、1585円に変貌。

 わずか1年で株価2倍、およそ80,000円もの利益を生みだしていたのである。

 


 ところがだ。私は株主優待欲しさに、売らずに保有という愚行をやらかした。

 たかだか2000円分の買い物券のため、80,000円以上の利益を棒にふってしまったのである(チーン)。

 ちょ、あんた……2000円の40倍だよ? 100円の本が800冊も買えちゃうだよ?!

 なんたる莫迦、底なしの阿呆、救いようのないアンポンタン(以下、延々)。

 ドヤ顔で殿様ゴッコとか、してる場合じゃないっての。



 悔しさのあまり、その後、696円の安値で買い増し、売らずに保有を続けてる。

 本編執筆時点(※2023年2月)では200株保有してるため、お買い物券3000円分ゲットである。ブックオフへ出向いては紙の束をドドン!と差しだし、ドヤ顔で「我は株主ぞ~よ~」と店員を威圧している。



 実は2022年12月に、3年余り低迷だった株価がジワリジワリと上昇しはじめ、

大納会を目前にひかえた27日に、1411円という年初来高値を記録した。

 が、137,000円もの利益はのまま、脳タリンな個人投資家によって、またもや泡と消えたのだった……。



「だって、だって、今年はようやく3年目に突入ってことで、お買い物券4000円分ゲットできるんだよぅ、おぅ、おぅ(泣)」



 いやいやいや、冷静になって考えろ。確実に色々と、おかしいだろう。

 4000円の34倍だよ? とんでもねー額だよ?

 100円の本が1370冊も買えちゃうだよ?!



「だって、だって、1370冊買ったって、どうせ積んどくだけだし。積んどくこと山の如しになって、山頂から「こんだけ積んだどー!」って叫ぶだけだし」



 つまりですね。無類の本好きにとっては、本屋の株主となり、その優待券を、これみよがしに使うというのが、なんというか……ステイタス? みたいな。

 

 

  ペニーフット・ホテル 受難の日/ケイト・キングズバリー 2015年12月

  バジャーズ・エンドの奇妙な死体/ケイト・キングズバリー 2015年9月

  月世界紳士録/三木笙子 2019年6月

  翻訳家列伝101/小谷野敦 2017年10月

  夜の神話/たつみや章 2017年11月


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~11月の「ちょっと一言云わせて本」~


『翻訳家列伝101』


 本書のなにが素晴らしいって、海外作品で圧倒的多数を占める英米文学以外の翻訳にも、かなりの紙面を割いていることだ。コンテンツは以下のとおり。


①明治・大正期の翻訳家

②フランス文学の翻訳家

③ロシヤ文学の翻訳家

④英文学の翻訳家

⑤ドイツ文学の翻訳家

⑥シナ文学の翻訳家

⑦推理・SF小説の翻訳家

⑧児童文学の翻訳家

⑨その他言語の翻訳家

付録 古典作品翻訳一覧


 名作が翻訳されるまでのドラマ、翻訳をめぐる裁判や事件、新訳/旧訳にかかる古典の利権問題、ミステリ&SF作品における東京創元社と早川書房の功績などなど翻訳に興味がなくても出版界に興味があれば史実系読み物として大変愉しめる1冊になっている。



 私のような莫迦レベルになると、海外小説を手にとる際、まずチェックするのは翻訳家の名前であり、海外小説を購った際も『書籍記録ノート』には作者名のみならず訳者名も必ず併記する。

 翻訳が素晴らしいと、作家ではなく。つまり、その人の訳した本を探しだして、購って読むというわけだ。

 原作者は二の次という、ふつうの本読みには理解しがたい行動をとる。



 名作に関して云えば、タイトルと翻訳者をセットで覚えるため――大久保康雄の『ジェーン・エア』、村岡花子の『赤毛のアン』、田村隆一の『アクロイド殺し』、高橋健二の『車輪の下』、浅倉久志の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』といった云い方をする。

 これは、まったくよろしくない。正しくは、ブロンテの『ジェーン・エア』、モンゴメリの『赤毛のアン』、クリスティの『アクロイド殺し』、ヘッセの『車輪の下』、ディックの『アンドロイドは~』である。良い子は真似しないよう。



 これまで読んできた作品数が一番多いのはクリスティだが、タイトルはほとんど憶えてない。でも、翻訳者はすらすら出てくる。田村隆一、加島祥造、中村能三、小尾芙佐、高橋豊、福島正実、宇野利泰、中村妙子。



 そして、私にとっての本書の白眉は、付録の《古典作品翻訳一覧》だった。

 これはスゴイ。これは圧巻。こうゆうのが欲しかった(感涙)。

 著名な作品に限られてしまうが、それでも60冊もの古典が、どの出版社から誰の翻訳で刊行されているかが網羅されている。

 翻訳マニアにとっては眺めてるだけで、もうたまらん光景なのだ

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