2019年10月/6冊 追悼・緒方貞子さん

 夕食の支度をしていた折り、FMラジオのアナウンサーが告げてきた。

「国連難民高等弁務官を務められた緒方貞子さんが――」

 現役を退かれてもうずいぶんと久しい婦人の名がこうも唐突に流れてくると、もはや嫌な予感しかしない。

「まさか……」との懸念は、すぐさま現実のものとなった。享年92歳。



 比類なき女傑の、10年にもおよぶ紛争地域での活躍、人道支援への献身ぶりを今日こんにちの日本人、とりわけ若年層では、どれだけの人が知っているだろう。

 マザー・テレサに比ぶれば、オガタ・サダコが浸透しているとは云い難い。

 だが、彼女の名と功績は《東洋のシンドラー》と呼ばれ命のビザを発給したことで世界的にも高名な外交官・杉原千畝のそれとならんで、学校の授業でとりあげ、子供たちに教えるべきものだ。

 平成以後の教科書を私は見たことがないけれど、まさか―――なんてことは、あるまいな。



 かくいう私も、2004年に『緒方貞子―難民支援の現場から』を読むまでは、まったく存じ上げなかった。

 国連にそのような機関があることも、そうした役職があることも。

 UNHCRの正式名や、refugee(難民)という英単語も、15年前に覚えたものだ。



 日本人初というだけでなく、女性として世界初、しかも御歳63での就任だった。小柄で柔和な面立ちとは対蹠的に、不屈の精神力と行動力の人でもあった。《小さな巨人》と称えられ、敬われたのは、国際連合という男性優位、条例遵守の斯界にあって、規則や前例にとらわれない現場主義を、説くだけでなく実践してきたからだ。

 緒方さんの活躍があったからこそ、日本国内でも難民支援や途上国支援などの国際協力が注目されはじめた。

 だが、難民条約に加入していながら我が国の難民認定率はたったの0.3%――先進国とは思えぬ最低レベルで、海外からも《難民鎖国》と批判を浴びている。



「あの緒方さんの祖国なら、きっと自分たちを護ってくれる。受け入れてくれる」

 そう信じて、命からがら海をわたってきた人たちがいる。

 日本人である緒方さんが鉄の意志で護ってきた難民たちの命は、日本国の鉄のように厳格な認定審査によって、阻まれている。


  文豪の凄い語彙力/山口謠司 2018年6月

  旧名門校vs新名門校/矢野耕平 2019年6月

  これがワタシたちの小説ベストセレクション70/ 2015年5月

  もっと!これがワタシたちの小説ベストセレクション70/ 2015年5月

  リヴィエラを撃て 上/髙村薫 2017年11月

  赤レンガの御庭番/三木笙子 2019年9月

  私が選ぶ国書刊行会の3冊(※非売品)


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~10月の「ちょっと一言云わせて本」~

『これがワタシたちの小説ベストセレクション70』

『もっと!これがワタシたちの小説ベストセレクション70』


 もう帯がスゴい。怖い。飛んじゃってます(色んな意味で)。


  【乙女ゴコロ(←桃色)をくすぐる こだわりの70冊!(※筆字)

   文学萌え!(←桃色の花マル&赤色の波線付き)(※筆字)

   男×男(←水色)の絆が描かれた文学作品を

   またまた70冊(←緑色)ご紹介!!

   新しい発見(←虫眼鏡のイラスト付き)がここにある! 第二弾

   全70冊 美麗イラスト&レビューつき♡(←桃色)】


 実物をお見せできないことが残念無念。


 でもって本書は、積ん読常習犯にとって【触るな危険】分野にあたる。

「なんで、あたしの好み、知ってんのよぅ! 脳内、勝手に覗いたでしょ?!」

 と、頁を繰るごとに、うろたえまくる自分がいる。

 構成にも、まったく抜かりがない。


   《このキャラクターに注目!!》

   《このシーンに釘づけ(※薔薇のイラスト付)》

   《これは必読! まだまだありますステキ小説》

   《これぞ絶品 おさえておきたいライトノベル》

   《次の中から心が惹かれる項目を選んで、各ページに進んでください》


 などなど、心をくすぐるどころか、鷲づかみ状態な見出しの数々。 

 読破したあかつきには、タイトルの『ワタシたち』に向かって「同志よ!」と叫んでいる、おバカな自分に遭遇できる。


 積ん読始末記で紹介済みの、あの本や、あの本や、あの本も、載ってます。

【ツン地層】に埋もれている、あの本や、あの本や、あの本も、載ってます。

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