2019年4月/10冊 辞書マニアによる辞書オタクへの道

 辞書は読み物だ、と断じてはばからない人種である。頁を繰ってるだけで、

愉しくて仕方ない。

 ゆえに新学期のこの季節は、書店の辞書フェアを心待ちにし、売り場を無駄に

徘徊するオバサンと化す。学生を見かけるたびに「これ、お薦めだよ! 私も愛用してるよ!」と心裡こころうちで老婆心を発揮する。

 新しい版を見かけると「おお、が出てる」と飛びつく。


 さて、これを読まれているあなたは、国語辞典を何冊お持ちだろうか。

 え、質問がおかしい? 国語辞典をお持ちだろうか、の間違いでは?

 いえいえ確実に冊数を、むしろ冊数を重点的に聞いております。我が家には国語辞典だけで、三省堂(横書き版/縦書き版)、旺文社、小学館、角川学芸出版と5冊もあるからだ。

 言葉の定義は辞書によってビミョーな差が生じる。出版社の個性が出るのである。辞書選びに迷ったら、異なる出版社で同じ単語を引いてみるとよい。一番好みの説明版をえばいい。


【マニアック】

・三省堂(横書き):何かに度をこして夢中になっていること(ようす)

    (縦書き):一つの事に異常なまでに熱中して、

                  狂気じみてさえ見える様子

・旺文社     :ある物事に極端に熱中し、執着しているさま

・小学館     :物事に極端に熱中しているようす


 三省堂(縦書き)に対しては、そこまで云わんでも……と思わなくもない。



【変態】

・三省堂(横書き):(性欲などの)異常な状態

    (縦書き):変態性欲の略、またその傾向を持つ人

・旺文社     :変態性欲(異常で病的な形で表れる性欲)の略、

                      またその傾向を示す人

・小学館     :変態性欲 ふつうとちがった形であらわれる性欲

                     正常からはみ出した性欲

・角川学芸出版  :(性欲が)異常であること


 変態が性欲に特化したものだったとは……頻繁に使わないようにせねばな。

 旺文社と小学館に対しては《病的な形》《正常からはみ出した》の部分に、

 そこはかとない攻撃性を感じる。



【積ん読】

・三省堂:(=積んでおく)書物を買って積んでおく読まないこと

・旺文社:書物を買っても読まずに積んでおくこと「積んでおく」のしゃれ

・小学館:書物を積んでおく、読まないこと「積んでおく」のもじり

・角川学芸出版:本を買っても、積んでおく読まないこと


 全社に対して、傍点の部分に、そこはかとない敵意を感じる(被害妄想?)


 単語を調べていると当初の目的とは関係のない、でも興味のそそられる語彙に

出くわすことがある。調べものそっちのけで意識を奪われたりする。

 この単語は使えるな……などと付箋ふせんを貼っていくため、気づけば付箋だらけの辞書になる。時間が経てば経つほどドレガナニヤラわからなくなり、付箋が本来の用途(注意すべき事柄への目印)を成さない辞書に成り果てる。

カラフルなヒラヒラが、たくさん付いただけの辞書。ちょっと可愛くしてみました的な辞書。でも、その頁は二度とひらかれません。


 母親の影響で、奥付の頁に必ず購入日を記入するようにしている。それを目にすると、購った当時が思い出される。こんなふうに――

 2013年3月。翻訳の勉強を始めて以来5年間愛用してきた『ウィズダム英和

辞典』第3版を、書店の辞書フェアで発見。手持ちは第2版。即買い。

 中学時代から愛用の『新明解国語辞典(三省堂)』第7版も発見。手持ちは2008年12月に買い替えた2代目第6版。即買い、少し迷う。2008年12月に

『国語辞典(旺文社)』第10版を、2009年3月に『新選国語辞典(小学館)』

第8版を購っている。あきらめた。

 短大時代から愛用の『リーダーズ英和辞典』第3版を発見。手持ちは2008年8月に買い替えた2代目第2版。即買い、すごく迷う。サイズがデカくなってる。値段も高くなってる。『小学館ランダムハウス英和大辞典』(15,120円)を購ったばかりである。あきらめた。


 オタクの線引きが、どこからかは不明だが(量なのか、目的なのか、コストなのか)辞典・事典・図鑑のたぐいが、ゆうに60冊を超える。辞書専用の書棚まである。重量ヘビー級もどんとこい! エレクター社のキャスター付きスチールラックのおかげで、いつでもどこへでも移動が可能。

 英語を筆頭に、ドイツ語、イタリア語、フランス語、ロシア語の辞書まで常備している。こちらもいつでもOKだ(なにが?)


 日本初という『weblish辞典』を購ったはいいが、当時の私はパソコンを持っていなかった。使ったこともなく、欲しいとも思わなかった。なぜ購った?

 自宅にネット環境が整ったのは、実に7年後。


『困ったときのベタ辞典』は昭和臭プンプンの1冊である。でも、困ったとき(親父がちゃぶ台をひっくり返す、バナナの皮ですべって転ぶ、パンをくわえて慌てて登校する、タライが頭の上に落ちてくる…)が一向に訪れなくて、困ってる。


『当て字・難読語の辞典』はまさしく娯楽本。横文字言語圏には存在しえないおん・語感・漢字マジックのオンパレード。日本人ってスゲーな、と驚嘆する。


『ドイル/クリスティ室内装飾事典』に至っては、25万人超えカクヨムユーザーの中にあって持ってるのは私だけ! と云い切れる(ほどにマニアック)。

 本書の中古品が、Amaoznにて700円~30,000円の値幅で売られていた。

 どう考えてもおかしい。


  猫道楽/長野まゆみ

  新学期/長野まゆみ

  紺極まる/長野まゆみ

  右近の桜/長野まゆみ

  コドモノクニ/長野まゆみ

  レモンタルト/長野まゆみ

  野川/長野まゆみ

  ジョバンニの部屋/ジェームズ・ボールドウィン 2014年11月

  明治妖モダン/畠中恵 2019年3月


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4月の「ちょっと一言云わせて本」

 該当作なし

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