積ん読始末記

2019年2月／8冊 複雑なファン心理

　それまでは大衆に見向きもされなかった（逆にいうと一部層にしか受け入れられなかった）小説がある日を境に突如注目を浴び、重版出来となる事態がある。

　そんなとき、一部層に属する身としては「ちょっと複雑」が本音である。

　それは2018年10月のこと。お誕生日を迎えられた美智子皇后（当時）による、

ご会見でのお言葉だった。

　読書好きで知られる皇后さま。翌年の退位後は、多忙なご公務でままならなかった読書に没頭できるお悦びを語られたうえで、おっしゃった。

「ジーヴスも２、３冊待機しております」

　これに報道陣が喰いついた。情報番組もこぞって取り上げた。たちまち話題となり、全国の書店や視聴者から問い合わせが殺到。１週間で２度も重版が決定したそうな。

　この会見にさかのぼること半年前。『2017年10月』のなかで私も話題にしてるんだけどね（『小説家になろう』投稿日は2018年３月）。まぁ、私ごときがネットの自己満エッセイでこぼしたところで、スルーだよね。

　ミステリの女王、クリスティも大ファンだったという、イギリスではホームズに並ぶ知名度なのに日本ではさっぱりだったジーヴスが、すっかり有名になってしまった現象を、しかし、私は素直に悦べない。無類の本好きとしては「え！　あなたもアレ知ってるの？！」というマニアックさを求めてしまうからだ。

　これでジーヴスに関するかぎり、出会いがしらの愕きと悦びは味わえなくなってしまった。それが淋しい。

　私のジーヴスとの出会いは、誰の薦めでもなく、雑誌や新聞の書評でもなく、偶然も偶然、書店めぐりによる成行きだった。今をさかのぼること11年前、行きつけの書店で洋書フェアが開催されており、ひときわ目立って積まれていたのが、イギリスが誇りしユーモア作家、P・G・ウッドハウスのペーパーバックだったのだ。

　作者もタイトルも聞いたことがなかったが、表紙の滑稽さにひどく惹かれた。直感がうったえてきた。「購（か）いなされ」

　その場で８冊を購（か）いしめた。１冊525円。消費税率５％の時代である。

　当時出ていた邦訳は、国書刊行会の単行本のみ。お値段高くて手が出ません！

といって、辞書を片手に読むこともせず、原書は2008年代【ツン地層】に埋もれている。

　その後、ジーヴス・シリーズが漫画化されたことを知り、こちらはすぐに読破した。今のところ『プリーズ、ジーヴス①～③』『ジーヴス英国紳士録』『ジーヴス狂騒紳士録』が刊行中。

　閑話休題。

　注目すべきは美智子皇后も積ん読されてるということだ。その表現はすこぶる奥ゆかしい。

「ジーヴスも２、３冊待機しております」

　積ん読＝待機している。これは発想になかった。【待機】と表現するだけで、罪悪感が薄れるような気がする。なんかもう本様（ほんさま）の意思で、私のことを待っててくれてるような気がする。あみんの歌が聞えてくるような気がする。　♪～わたし待ーつーわ　いつまでも待ーつーわ～♪

でも、本様（ほんさま）たちは、もれなく叫んでるような気がする。

「ごたくはいいから、さっさと読め」

　　東京少年／長野まゆみ

　　海猫宿舎／長野まゆみ　2013年3月

　　学校ともだち／長野まゆみ

　　ノスタルギガンテス／寮美千子　2014年7月

　　小惑星美術館／寮美千子　2014年9月

　　今、風が梢を渡る時　前／かわい有美子　2015年9月

　　聖夜／佐藤多佳子　2018年1月

　　囚われの愛ゆえに／アナ・キャンベル　2014年3月

『海猫宿舎』は2004年に新刊で購い、その後手放してしたものの、また読みたくなって手に入れた。こういうポカをよくやる。

　記憶にあるぶんはまだいい。読んでる最中に「あれ？　これ、もしかして前に読んだ？」となって、知らべてみると過去に購（か）って、手放したやつだったというパターンが、ほかにも４、５冊ほどある。地味にくやしい。

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２月の「ちょっと一言云わせて本」

　該当作なし