2019年/100冊(消化本63冊、再読本37冊)

2019年1月/9冊 家宝の非売品&背表紙鑑賞の愉しみ方

「どんな大金積まれたって絶対ゆずらないもんね、ヘヘン!」

 という大人げない態度で死守する冊子がある。

 頬をよせ、スリスリしたいほどの宝物。それは――


『私が選ぶ国書刊行会の3冊』(非売品)


 書店にはうちとは比べものにならない膨大な量の文庫が並ぶ。その【背表紙】を眺めているだけで胸が躍る。とことん、酔える。


 私がまず突進するのは〔岩波〕だ。オバサンの老眼にも優しいベージュは、

老舗旅館の看板女将、慎ましい和服美人を思わせる。「はぁ……落ちつく」と、目の前で茶をすすりたくなる。

の切り口がそろっていないところも実に好み。不朽の海外作品に一級の翻訳家という組み合わせであれば、字面だけでニヤニヤできる。


〔ちくま〕もいですな。ジャンルや作家で色分けスタイルが好感触。

 こんなん誰が読むねん……というマニアックなタイトル、カネに糸目をつけないオタク向け全集・集成・傑作選の充実ぶりは、素晴らしいのひと言だ。

「手が出せるもんなら、出してみな!」という江戸っ子の粋さを感じる。 

『宮沢賢治全集 全10巻』『夏目漱石全集 全10巻』が欲しいのだけど、お値段高くて手が出ません!(ともに10,000円超え)


 古典好きには〔新潮〕もたまらない。シンプル・イズ・ザ・ベストの見本たるレイアウト(特に白)は、楚々とした女学生、ひいては深窓の令嬢を思わせる。「お姉さま、素敵……」と棚の蔭から崇めてしまう。

〔早川の赤〕(またの名をスケ番姐さん)に対抗できるのは〔新潮の白〕しかないと思ってる(厳密には白以外もあるけれど)。こちらものギザギザが良い。


 その〔早川〕は、若いころは平気だったが(むしろ喰いついていたが)

今や目がチカチカして不可いけなくなった。赤はレディース、黒は暴走族、青は特攻隊(たとえが昭和なのは大目に見てください)。タイトル探すだけで疲れてしまう。歳は取りたくないものだ。


 そんなイケイケ〔早川〕のあとは〔東京創元社〕のほのぼのパステルで、

口直しならぬ眼直しをする。「やっぱ、フツーっていいよね」とほっこりする。


 書架に並べて気持ちが良いのは断然、白である。我が家には白い背表紙だけで

埋めつくされた棚がある。それをうっとりと愛でて(中身は読まずに)今日も終わる。おやすみ、本様ほんさま

 【文庫=廉価】は出版界の了解事だと思ってきたのに、昨今は事情が変わりつつあって、困る。文庫なのに1,000円以上するものがある。なんでやねん。


 閑話休題。

 書肆しょしを訪れた私が陶然と眺めるのは文庫棚だけではない。私にとって高嶺の花、それこそが国書刊行会!

 ここでようやく冒頭の話につながるのだった(長……)。

 

 2012年夏。行きつけの本屋の一角に、突如【国書刊行会フェア】が現れた。

信じられなくて、二度見した。

 うぉぉぉ……という地響きのような唸り声を心裡こころうちで発し、コーナー前に陣取った。入口付近でこんなにも目立ってるというのに、客足は新刊コーナー、雑誌コーナー、文庫コーナーへ散っていく……なぜ? その目は節穴か。

 麗しの装丁、豪華な函入り紳士淑女が、棚に所せましと鎮座する。並んでいるのではない、まさしく鎮座しているのである。


 山尾女史の書籍に始まり、ウッドハウス・コレクション、バベルの図書館、

久生十蘭全集、ボルヘス全集、ラヴクラフト全集etc……。

 どれも、お値段高くて手が出ません!

 垂涎するしかない視線が、そのときロックオンした物こそ『私が選ぶ国書刊行会の3冊』――151頁にもおよぶ国書刊行会40周年記念小冊子――なのだった。

くり返す。非売品である。「ご自由にお取りください」なのである。なんという

慈悲深さ……さすがは国書刊行会。懐も深い。


 中をひらいてブッ飛んだ。61人もの執筆陣、その顔ぶれたるや、私が知ってるだけでも、円城塔、大森望、恩田陸、金原瑞人、岸本佐知子、北村薫、佐野史郎、柴田元幸、高原英理、嶽本野ばら、巽孝之、豊﨑由美、長野まゆみ、皆川博子、山尾悠子、吉野朔実(敬称略)――。

 これだけの著名人による寄稿文が、なのである。くり返す。非売品なのである。なんという太っ腹……ありえない……非売品(5回目)。

 山尾女史に至っては、ご自身の著作『山尾悠子作品集成』が幾人もの執筆陣から『私が選ぶ3冊』に挙げられていた。

 ええ、ええ、そうでしょうとも。そうなるでしょうよ。


 そして61篇の寄稿文が、これまたどれも尋常じゃない。文章からは、本様ほんさま

偏愛する者どもの奇人変人怪人ぶり(最大級の褒め言葉です)が、にじむどころか垂れ流し。自らを変態呼ばわりする方までいらっしゃる始末。

 落ちついてくだされ、岸本姐さん!(あ、バラしちゃった)

 とにもかくにも、この冊子からは

「ノーマル読者はお呼びでない。来たれ、集え、アブノーマルども!」

といった奇怪オーラがビンビンなのであった。


  ぼくはこうして大人になる/長野まゆみ

  水迷宮 汪の巻/長野まゆみ

  水迷宮 瀧の巻/長野まゆみ

  夜啼く鳥は夢を見た/長野まゆみ

  よろづ春夏冬中/長野まゆみ

  鳩の栖/長野まゆみ

  第二音楽室/佐藤多佳子 2018年6月

  まんがの図解でわかるニーチェ/監修 白取春彦 2012年4月

  惜別の賦/ロバート・ゴダード 2017年1月


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1月の「ちょっと一言云わせて本」

『第二音楽室』


 初めて読んだ佐藤多佳子さんの小説は『神様がくれた指』だった。クセがなく読みやすい文章、子供から老人に至るまで魅力あふれるキャラ設定が強く印象に残る1冊だった。本をひらく前は「読んだら売ろう」と決めてた小説だったが(スミマセン)本をとじた後は「読んだけど売らない」に変わってた。


 『神様がくれた指』が面白かったからという理由ではなく、学び舎が舞台だったからという理由で購った。読んでるあいだは、本当におなじ作家が書いた作品なのかと驚かされっぱなしだった。女生徒の活き活きした描写が素晴らしい。

 佐藤さんって、実は現役高校生作家? 何度思ったことだろう。これほど瑞々しい10代の少女像、私にはとても書けない。

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