2018年8月/11冊 古典文学の翻訳読み比べ

 古典文学ともなると、複数の出版社から複数の翻訳者で刊行されている作品が

多い。訳者をたがえての読み比べは、よほどの趣味人でないかぎりしないと思うが、いざやってみると、これがけっこう面白い。


 たとえばAmazonのレヴューで、新訳・旧訳の違いっぷりを披歴し、講釈をたれてる内容のものをたまに見かける。

 2006年、大々的に宣伝され話題をさらったのが、村上春樹氏による新訳、J.D.

サリンジャーの『Catcher in the Rye』だ。そのレヴューは、小説に対する純粋な

感想というよりも、野崎孝氏による旧訳『ライムギ畑でつかまえて』を並べ、

解釈の多様性がもたらす印象の違いに言及する内容が多かったように思う。

 私は、2013年に原書と村上訳とを突きあわせて読んだのち『翻訳夜話2-サリンジャー戦記』も読んだ。永遠の青春小説と謳われる本書であるが、大人になって読んだのがまずかったのか、主人公の堂々巡りな感情に最後まで共感できなかった記憶がある。野崎訳で読めば、また違う心象を抱くのかもしれないが。


 閑話休題。

 8年前のこと、古書店でミステリ界の傑作、クリスティの『アクロイド殺し』を3冊発見した際、どれをうかで相当迷った。すべて訳者が違ったからだ。

 ハヤカワが現在もっとも普及されている文庫版だろうが、そのハヤカワだけでも新訳・旧訳の2種類があり、他に新潮社、集英社、創元推理文庫、嶋中文庫、

講談社文庫、角川文庫、偕成社文庫からも出ている。


 結局、2時間ほどウロウロしていただろうか。内容は承知していたので適当にひらいた頁の訳を比べまくっていた。あっちの棚から、こっちの棚へ。その都度、本をひらいては閉じ、ひらいては閉じを繰り返し「おぉぉ……」とつぶやく1人の女。しかもタイトルはすべて『アクロイド殺し』ときた。

 店長、ここに不審人物が……。

 そして、2時間もかけて選抜された、誇り高き勝者だというのに、2010年代

【ツン地層】に埋もれている(あの2時間は、なんだったのか)。


『アクロイド殺し』にかぎっていうなら、自分も読み比べてみよう!と思われた方で未読の方は、ぜっっったいに最終章を選んではいけない。

 だが、私が選ぶに至ったその1冊は、まさにその最終章ラスト2行が決め手であったことも添えておく。


  天国でまた会おう 下/ピエール・ルメートル 2017年7月

  レンデル傑作集3 女ともだち/ルース・レンデル 2011年3月、2018年3月

  はじめての確定拠出年金/田村正之

  君と過ごす季節 春から夏へ、12の暦物語/大崎梢ほか 2018年8月

  ヘビイチゴ・サナトリウム/ほしおさなえ 2017年11月

  第2図書係補佐/又吉直樹 2018年8月

  おとぎの国の科学/瀬名秀明 2008年10月

  新井素子のサイエンス・オデッセイ/新井素子 2018年6月

  ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド

                    /山崎元・水瀬ケンイチ 2017年1月

  株の実践トレーニング 投資脳を鍛える!/窪田真之 2016年10月

  株式投資これだけ心得帖/東保裕之 2016年10月


 2008年代【ツン地層】から、ようやく1冊消化である。10年前に購った本……初めて繰られる頁……とくれば、なかなか感慨深いものがあった。

 当時の私はSFバカだった。SFにしか興味がなかった。理解できないのに(読みもしないのに)物理・科学系の書籍をいあさってた。

 10年後にそのツケが回ってこようとは。エラい被害をこうむっている。


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8月の「ちょっと一言云わせて本」

 該当作なし

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