2018年7月/12冊 人生初のオマージュ作品
小説を読むのも書くのも好き、という方であれば「この作品にオマージュを
捧げたい!」という衝動に駆られたことはないだろうか。
私はある。過去に三度だけある。
中学生の時点で、赤川次郎氏の長編はおおかた読み尽くしていた。ショート
ショートというジャンルをまだ知らなかった自分が、どういう経緯で『勝手に
しゃべる女』を手に取ったのか、今となっては思い出せない。
それまでの氏の作品に対するイメージは《ミステリなのに爽やかで明るい》
《切なさが残っても重さは残らない》だったから、収録作のひとつ『長い長い
かくれんぼ』を読んだ直後の心情は、それまでのイメージを完璧にくつがえされた衝撃もあいまって、語彙力乏しい中坊の身では伝えられなかったように思う。
あれは私にとって、ショートショートの持つ《世界が反転する鮮やかさ》と、
SFの持つ《非道な非日常》に一瞬で心を奪われた初めての体験だった。やるせないけれど不快さはない、むしろ美しい残酷性によって人の誠実さや、まっとうさの際立つ物語があることを、鮮やかに示してくれた。
それ以降、数多のショートショートを読んできたが『長い長いかくれんぼ』を
越える作品には出会えぬままだ。
私にとって初のオマージュ作品、SF短編『永い永いかくれんぼ』は、こうして生まれた。16年前の話である。
神林長平氏との出会いは『SFマガジン』誌上、それも偶然の出会いだった。【リーダーズストーリー】という読者投稿欄に応募した『ラッキーボーイ』が
まさかの佳作に選ばれ、一生の記念にと
『膚の下』だった。何気に読み始めたところ、あっというまに心を持っていかれた。
すでに日本SF界の大御所であった氏の小説は、初期作品が地元の書店では手に
入らず、かたっぱしから取り寄せるはめになった。新参ファンの特権は何冊もの
既刊小説を一気読みできる点だ。2001年から2002年は、ひたすら神林ワールドに
身をひたすことのできた幸せな年だった。『ラッキーボーイ』が佳作に選ばれていなければ、あの号を買うことはなかったし、神林作品にハマることもなかっただろう。私はラッキーガールだった。
前置きが長くなった。『膚の下』は火星3部作の第3部だというので、まずは
第1部『あなたの魂に安らぎあれ』を
きて頁をめくる。そこに書かれていた1文に目をみはった。
「えっ? そういう構成だったの?!」
その頁には、その1文しかのっていなかった。なおさらインパクトがあった。どうにかしてオマージュを捧げたいと思った。それがSF短編『赤い星』である。2作目となるこのオマージュ品も、16年前に生まれた。
ちなみに第2部『帝王の殻』は絶版で取り寄せすらできなかった。その後再版
され、ようやく入手できたというのに、2004年代【ツン地層】に埋もれている。『膚の下』は『積ん読消化・事始め』にあるとおり、2007年代【ツン地層】に
もっか埋没中。
3作目のオマージュ品は『2018年4月』に記したとおり、長野まゆみ女史の『テレヴィジョン・シティ』、こちらは短編ではなく歌詞という形態。
書き下ろし日本SFセレクション NOVA4/大森望責任編集 2017年8月
蛇行する川のほとり/恩田陸 2018年4月
終点のあの子/柚木麻子 2016年12月
いのちのパレード/恩田陸 2018年6月
小指の先の天使/神林長平 2017年10月
タイム・リーパー/大原まり子
スノウ・グッピー/五條瑛 2015年6月
瞑き流れ アドリアン・イングリッシュ5/ジョシュ・ラニヨン 2018年5月
冷蔵庫のうえの人生/アリス・カイパース 2017年11月
Life on the Rrefrigerator Door/AliceKuipers
天国でまた会おう 上/ピエール・ルメートル 2017年7月
夜を乗り越える/又吉直樹 2018年6月
今月は1冊が厚い本が多かった。『スノウ・グッピー』は後述するとして、
『タイム・リーパー』は461頁、『天国でまた会おう』は上巻334頁、下巻311頁だから、1冊にまとめると645頁になる。
そもそもの話、分冊の基準はなんなのか。頁数が関係するなら『スノウ・グッピー』こそ当てはまる。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は上中下巻
だったが、あれは上下巻でよかったのでは。冊数を増やして売上をかせぐという出版社の意図がみえみえだ。
あさのあつこ女史の『No.6』(講談社文庫版)もまた然り。1冊があんなに
薄いのに、10分冊にする意味は?
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7月の「ちょっと一言云わせて本」
『スノウ・グッピー』
我が読書人生で今のところ、一番の厚さを誇る本。全709頁。背表紙の厚さ2.6cmともなると、もう小型の辞書並みだ。ネットで手に入れたため、ポストから取りだした際の重量感に慌てふためき「あわわ、いったいあたしゃ、なに購っちまったんだい」と開けるまでの
なにこれ、厚っ!(デジャヴ)
読み始める前はぶ厚さにビビって腰がひけたものの(そして3分の1までは
退屈すぎて途方に暮れた)中盤からはぐんぐんと引きこまれ、あっという間に読破した。
この方の小説はこれで3冊目なのだが(あとの2冊は『熱氷』と『エデン』)ずっと男性作家だと思っていた。ネットに書かれたレヴューを読んで女性と知るなり、なるほどねぇ……と、すこぶる納得。
だって、物語全般にそこはかとなく漂う空気が、アレなんだもの。というか
最初からアレ目線で読むと、そこはかとなくどころか、だだ漏れなんだもの。
レヴューの中身もそれツッコミがほとんどで、読みながらニヤニヤの止まらなかった私。ああ、しをん女史にも勧めたい。合田刑事好きならハマる筈。
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