第50話ーーおっさんMk.2

「乗組員は速やかに席にお着き下さい」

「隔壁封鎖っ」


「魔道エンジン内、圧上昇!」

「「システムオールグリーンにゃ」」

「カタパルト前方軌道上障害物一切ありません」

「いつでも可能ですっ」

「発進!!」

「ブースターオンっ発進致します」


 ズズズズズズ……


 どこかのアニメで見たような、茶色く丸みを帯びた重厚な音をたて、天空の島から更に空へと斜めに伸びたハシゴ……いや、レールのようなものの上を滑りゆく。


「大気圏突破まで……30……20……10……突破します」

「ブースター解除」

「目標金星」

「目標金星、自動パイロット作動させます」



 これはおっさんたちが地球の管理から外され、宇宙へと逃げている訳ではない。

 新婚旅行というやつである……アルたちも何故か着いてきているのだが。


 何故宇宙へと、一行で旅行へと出かける事になったか?それは結婚式をした翌日まで話は遡る。


 無事結婚式はつつがなく済み、わざわざ屋敷近くに建てられたおっさんと新木用の別館で、初夜を過ごした2人。

 そうなれば、次は新婚旅行となるのだが、地球世界はいつでもどこにでも行ける上に、現在は顔バレしまくっている為に、旅行するとなると2人とも変身スキルを使用せざる得ない事となる。それではつまらないし、気楽に気軽に過ごしたいものである。


「そう言えばヒロは宇宙って行ったことないんだよね?」

「うん、ないよー。宇宙の旅の懸賞とか応募したけど当たった事ないし、そもそもその時飛び立つと言っていた日時なんて、もうとっくに過ぎてるし」


 新木だけではなく、宇宙に行ったことある者など限られている。


「じゃあ、宇宙はどうなの?」

「た……たもっ……保さんがいいと言うなら」

「ヒヒヒヒヒロコがのぞ望むなら」


 初夜を終えた事で、新木はおっさんの呼び方を変える事にしたらしい。慣れないせいか、吃りまくって、モジモジしている。そしておっさんも同様だった……変な笑いみたいだが。


 まぁそんなこんなで宇宙旅行となったわけである。

 そしてあれよあれよという間に、島内に巨大なドッグが作られ、カタパルトが作られ設置された。

 全てハリキリまくったルルアーシュが、幾多のゴーレムと共に行っている。

 当初おっさんは、宇宙の旅という事で、スペースシャトル的な物を想像していたが、ルルアーシュと新木がしょっちゅう顔を合わせて話し合っている事に、不安を覚え始めていた。もしかして、白い新型艦かと……

 その不安は杞憂とはなったが……敵軍のソレだった。


「えっと、これは……」

「これはですね、G軍唯一の大気圏内外両用艦です。ルルが言うには魔法で飛ばせるから、どんな形だろうと問題ないとは言われたんですけどね、やっぱりそこは様式美というかこだわりたいじゃないですか!まぁでも、本当は巡航距離はそこまでない ふねなんですけど、そこはまぁ目を瞑るというか……でも、それくらいはいいですよねっ!」


 おっさんが聞きたかったのは、そこじゃない。いつものあれだ、著作権とかそんな話である。

 だが、熱く語る新木の前に、おっさんは口を噤んだ……噤まざるを得なかった。なぜならここに新木父という、更に熱く語る人間が現れたからである。


「これはスゴい!さすがルルアーシュさんだ。エンジンは……これは魔晶石?となると魔法的な物?それとも地上の発電所と同じ仕組み?」

「金星までですと遠いので、途中で転移などを行うため、魔法を使用します」

「転移……ふむ、ワープの代わりですね。ですが魔法となると音はしないわけですね」

「ええ、鳴りませんね」

「それは少々寂しいですな」

「何故でしょう?詳しいお話を……」


 更にそれっぽい物が出来上がるだろう。ルルアーシュの目が輝いていた――このように物作りをしている方が性にあっているだろう。他の事……特に管理関連になるとすぐ「世界を滅ぼせばいい」などと口走るのだから。ただ残念なことは、どんどん間違った知識をルルアーシュが得ている事だろうか。


 そんなある日の事だった、アルがボソリと呟いた。


「いいにゃ〜……でも、どうせアルたちは重力に魂を引かれた人にゃ、宇宙そらへと飛びたてにゃいにゃ」


 なんて、おっさんと新木をチラチラと見ながら言い出したのである。

 ――一応、2人の新婚旅行だという事で、遠慮はしているらしい。だが、その言い方は明らかに新木の心をくすぐろうとしていた……確信犯である。


「アルちゃんっ!そんな事ないよっ、一緒に行こっ」

「で、でも……いいのかにゃ?保はきっと……」

「いいですよねっ?たたたたもつさん」


 こうなってしまったら、NOと言える訳もない。おっさんは頷く事となった。


「アルよかったにゃっ……寂しいけど、ウルフたちは地球で待ってるにゃ、寂しいけど」


 今度はウルフのチラ見である。同様にローガスもおっさんの顔をチラ見していた。


「全員で一緒に行こう」


 そう、こうなる事は時間の問題だった。そもそも艦の運転士として、ルルアーシュを連れていく気だったのだから、そう変わりはないだろう。


「全員っていうのは、お父さんやお母さんや、ヒロコや保の家族たちも含むのかにゃ?」

「んっ?どうなんだろう」


 おっさんが首を傾げたのは、搭乗人員量がどれほどかわからない為である。

 そこでルルアーシュに聞いたところ、搭乗数は余裕があるが、ただの人間である彼らは艦外活動を行えないが、それでもいいのならとの事で、確認したところ全員参加となった……甥っ子までノリノリである。


 ふとおっさんは気になってしまったが、宇宙遊泳的な事だろうと、勝手に納得した。G軍の艦がある時点で、有り得る可能性を考えなかったのだ。


 そして製造期間3ヶ月後の本日、一行揃っての宇宙の旅へと出掛ける事となったのだ。


 ちなみにおっさんの席は、艦長席であり、眷属たちはそれっぽい機器の前に陣取っており、ノリノリだ。発進のやり取りなどは、事前に幾度の練習まで行っていたりする。何のつもりか、全員揃って地球に向けて敬礼までしていた――常識&冷静担当のルルアーシュやウルフまでが、既に完全に染まっているという悲しい現実。


 その後、家族含めて全員で無重力状態を楽しんだり、星々や地球を眺めてやいのやいの言ったりした後、おっさんとルルアーシュによる魔力補充で、4度の転移を繰り返し金星に到着した。


「では、待望の地表探索ですね」


 宇宙服を探す一同と、ドヤ顔のルルアーシュと新木。


「では皆さん格納庫へ移動しましょう」


 そこにあったのは……


「タモタンクMk.2です!コクピットはお腹にありますので各自ノーマルスーツ着用後2名づつ搭乗して下さい」

「えっ……」


 おっさんゴーレムの下半身がキャタピラに変更された物だった。

 おっさん絶句、アルとウルフがそっとその背中を優しく撫でる……どこかで見た光景、再びである――何故にMk.2なのか、Mk.1はキャタピラではなく蜘蛛の足のようになっていた、おっさんの身体に蜘蛛の足……どこからどう見ても不気味過ぎた、ルルアーシュや新木でさえ不気味と感じた為に、却下となったのだ。


 何とか励まされながら、乗り込み探索。そこにはどこか文明があったかのような光景が広がっていた。

 ……こうなると、テンションが上がるのはおっさんとアルである。縦横無尽にタモタンクを動かし、はしゃぎながら探索しまくる。


「これは、御屋敷の跡みたいにゃ」

「だね!生活用品とか残ってないかな?」

「あっち行ってみるにゃ」

「どんな人たちが住んでたのかな〜」


 キャッキャッキャッキャッと騒ぐ2人。


「この星は、約2億年ほど前に滅ぼした場所ですね。生き物の痕跡とは、これ程までに残るとは……参考になりました」

「……そうにゃか」

「そうなんだ……」


 ルルアーシュの無慈悲とも言える、衝撃の事実の説明。おっさんとアル、一気にだだ下がりである――ローガスだけは、その言葉の真実に顔を青ざめさせていた。2億年前にルルアーシュが生きていたという事、滅ぼしたという事実に。


 そして無事……無事?に探索を済ませ、天空の島へと帰ってきた一行、約3週間の旅であった。


 帰ってきた一行を待ち受けていたのは、中間管理職のあの神様だった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891810408


憧れのあの子はダンジョンシーカー〜僕はあの子を追いかける?〜


よろしければお読みくださいませ。


ざまぁwwwwで、チートな感じです。

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