第49話ーーおっさんのスキル活躍

「「俺たち(私たち)は、結婚しますっ」」


 屋敷に戻った2人は、眷属たちの前で宣言した。


 アル……「にゃっ?……あぁ……うん」

 ローガス……「ようやくですな」

 ウルフ……「おめでとうですにゃ」

 ルルアーシュ……「ヒロ!おめでとう」


 おっさんたちが思ったほどの、驚きなどなく淡々とした反応だった。唯一注目すべき点は、ルルアーシュが新木を「ヒロ」呼ばわりした事くらいだろう……どうやら巨大ゴーレム作製で共同作業をこなした事で、急激に仲良くなったらしい。

 ――反応がないのは当然である。もはや今更感満載すぎるのだ。

 だが、一世一代勇気を振り絞って、絞りまくってプロポーズをしたおっさん、テンションが高くなりすぎて、そんな周りの心情になどに気付くはずもない。


「な、何っ?アルのその反応……もしかして大好きな俺が結婚しちゃうとか、寂しいの?んっ?んっ?」

「そんなわけないにゃ……ッチ!触るにゃっ!」


 パーンッ


「ふしゃーっ」


 久々の猫パンチである……割と本気目の。


「今更にゃ、だいたいヒロコを待たせすぎにゃ、普通こんなにも待ってくれる女はいないにゃっ!ヒロコに感謝するにゃねっ!それにだいたい結婚もにゃにも、みんなこれから永遠とずっと一緒にゃ」


 アルの言う通りである。

 ローガスを初めとして、眷属の誰もが静かに頷いていた。

 新木の一途なる愛が、成せた事実である。

 アルとローガスが一番長く見守って来たゆえに、2人の感慨深さはそれなりにあったが、まぁ、今更感満載過ぎるのだ。


「アルちゃんっ!ありがとうっ!これからもずっとアルちゃんのお姉ちゃんだからねっ」


 テンションが上がりまくっているのは、おっさんばかりではない、新木もだった。

 忘れがちだが、おっさんと同類なのである。吹っ飛ばされたおっさんに代わって、アルの身体を抱きしめ始めた。


 パーンッ


「にゃーっ!触るにゃっ、だいたいお姉ちゃんはアルにゃっ!ヒロコは手のかかる妹にゃ」


 悲しいことに、プロポーズ後の初めて共にした事は、アルに肉球パンチで吹っ飛ばされる事だった模様である。


 そしてアルの叫びは届いていないようである……2人とも勝手に納得して、頷きながらニヤニヤして、だらしなく顔を緩めている。



 その後2人が落ち着いたところで、ガイン・ミルカ夫妻に、そして新木両親へと報告へと向かった――ガイン・ミルカ夫妻の反応は、アルたちと似たようなものだった、アルとローガスに次ぎに長く見守ってきたのだ。

 新木両親は、娘の想いがいつ叶うのか?なんと言っても永遠の生を持つようになってしまった2人の事である、自分たちが死を迎えるまでに娘の晴れ姿を見る事が出来るのか?そんな想いを抱いていた為に大いに喜んだ。


 次に向かったのは、当然おっさんの家族の元だったのだが、ここで思わぬ問題が発覚した……甥っ子である。

 甥っ子が叶わぬ恋を新木にしていたとか、そんな甘酸っぱいものではない。

 問題とは、甥っ子全然成長していなかったのである、体格的に……

 ここ数年、食料・生活必需品・勉強道具は日本で仕入れてきた物は全てゴーレムに運搬を任せっきりにしていた事による弊害である。

 順調に成長していれば、そろそろ20歳ほどになっているはずなのだが、その姿はまだ中学生ほどにしか育っていなかったのだ。


「なぁおっさん、どうなってるんだ?」


 すっかり中身が成長してしまっているのは、口調などに現れていた。


「何度もゴーレムさんに手紙を持って行って貰ったんだけど……」

「手紙……そういえば、そんなの貰ったような気がしないでもない」


 妹の言うゴーレムに託した手紙、おっさんは確かに受け取っていた、ただ最初の頃読んだ際に「いつもありがとう」とだけ書かれていた事で、2,3通読んで以降はチラっと見て適当に部屋の片隅に置きっぱなしにしていた……元来のズボラさゆえの結果である。


「おい、おっさんどうなってるんだよっ!」

「もしかして、父さんたちがあまり老けていないのもそのせいかな?環境いい所でののんびり暮しの為かと思っていたんだけど」

「あーうん、俺たちはそうかもしれんが……」

「なぁっ!どういう事だよっ、俺ずっとこのままなのか?」

「ちょっ、ちょっと聞いてくる」


 甥っ子の思わぬ強い口調に、地上生活時代などに街中で絡まれたりした事を思い出してしまい、ビビった、ヒビりまくった。そして動揺しまくっての、「聞いてくる」という名の逃亡をかました――プロポーズという男を見せたというのに、相変わらずヘタレだった。


「おや、ご両親の元に向かわれたのでは?」


 慌てた様子のおっさんに、不思議そうな顔を見せるルルアーシュ。そこで先程の話を告げたところ帰ってきた答えは……


「この島に生えている桃は、地球世界でいうところの仙桃ですので、1つ食べると約10年ほどの不老となります。また怪我や病気も治します」

「桃……」


 おっさんには思い当たる事があった、それは歳を取らないという事ではない、アルと小屋を作った際に、美味しい桃が沢山生えているからという理由で土地を選んだ事である。

 そして桃はこの屋敷でも、毎日当たり前のように食している。


 すぐさま甥っ子の元へと跳び、家族を屋敷へと連れ帰ってきた2人。

 そして人間であるガインたち夫妻や新木両親を集め、桃についての説明をする事となった。


「ルルアーシュ、さっきの桃についての説明お願い」

「かしこまりました。この島にある桃ですが、食べると怪我や病気は立ち所に治り、尚且つ1つあたり10年の不老となります」

「えっ?私たち毎日食べてるんだけど……」

「そうですか、移り住んでからこれまでとなると……まぁ長くて数十万年程度でございますのでそこまでお気になさる程ではないかと思われます」


 誰もが驚いた。

 驚きはしたが、ガインたち夫妻は直ぐに受け入れた、相変わらず懐が深い……さすがはアルを娘として受け入れただけはある。「これからもお料理を作らさせて頂けますね」なんて言っていた。

 新木両親も、おっさんの両親や妹も、少しの間は衝撃的事実に戸惑っていたが、「まぁ、しょうがない」とか「なんか俺らも趣味を探さないとな〜」「そうね、たくさん楽しめる物がいいわね」「新木さん、絵を教えて頂けませんか?」と受け入れた。

 問題は、甥っ子である。


「なっ、俺はこれからこの姿でずっといるのか!?誰もいないこの島で、1人でっ!」

「んっ?1人じゃないぞ?みんないるぞ」

「そうね、ここにいる皆さんとずっと一緒ね」

「そうじゃないっ!そういう意味じゃなくてっ」


 多感な年頃である。このままここで過ごすという事は、彼女とか結婚相手も出来ないままに……という、おっさんよりも更に過酷な人生を歩むという事である。おっさんが結婚という節目を迎えただけに、甥っ子の気持ちは強く出てしまっていたのだが、それは致し方ない事だろう。


「あぁー今は顔バレとかしちゃうだろうけど、もう少し経ったら戸籍とか用意して地上に降ろすことも出来るよね?ルルアーシュ」

「はい、可能でございます」

「でも、この姿のままだったら、不審に思われるだろっ」


 そう、不老という事は中学生のような姿のままである……ある程度までは若く見えるといって通っても、いつか無理がくる。そして恋愛相手も限られてくる事となる。


「か、考えておくよ」


 甥っ子の切なる叫びは……おっさんの必殺技、先送りとなった。

 この問題に関しては、後ほど解決が今はまだ、ただの先送り、現実逃避である。


 甥っ子が不審気な顔をしているが、おっさんは強引に話を変える。


「それで結婚の事なんだけどさ……」

「そうね、こうして全員集まったわけだし、その話をしないと」


 おっさんの母が乗ったところから、話は始まり、1時間ほど続いた。

 結果は、花嫁姿を見たいという事もあり……

 ・結婚式を天空の島内で行う

 ・ウェディングドレスは日本で買ってくる

 ・料理はガインたち夫妻が作る

 ・予定日は1ヶ月後

 という、時折行ってきたパーティーにウェディングドレス成分が増えた程度の事をするという話でまとまった。


 そして1ヶ月後、人前式という形で結婚式を2人は行い、不貞腐れた甥っ子以外のみんなに祝福される事となった。


 そしてその夜、2人はついに……

 内容は省くが、誰もが忘れている、おっさんが無駄に夢見て取得した性豪スキルが、初めて仕事をしたとだけ……

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