第44話ーーおっさん謝罪する

「クククク……ハーハッハッハッハッ」


 おっさん、転移して天空へと戻って来て大笑いである。

 最近、リア充アピールが激しいローガスにしてやってやったと、あの驚きの表情を思い出すだけで笑えて、スッキリしていた。


「ちょ、ちょっと可哀想にゃ……」


 高笑いし続けるおっさんに対し、アルがおずおずといった表情で言い出した。

 そうなのだ、性別が違うだけで、アルも似たような事をしている故に、アルは気が気ではなかった。矛先が自分に向くのではないかと……


「そう?」

「にゃ……」

「長命種はその特性状からどうしても相手の年齢が若くなってしまうのは致し方ない事かと。また、たくさんの相手がいるという事は、それだけ雄として優れている証ともなります」

「くっ……」


 アルだけかと思ったら、意外にもルルアーシュがフォローしだした。そして言葉の内容は、とても的を射ていた。


「ローガスは確かに節操ないかもしれにゃいけど、仕事はちゃんとしているにゃ」


 思わぬルルアーシュの援護に力を得たのか、ここぞとばかりに強く言い募るアル。


「うーん、私はハーレムとかどうかと思う」

「だよねっ!?」

「うん、だから大磯さんもわかっているよね?」

「あっ……はい」


 新木はハーレムという点において反対派である。そして以前からハーレムに密かに憧れているおっさんに釘を刺した。


「ウ、ウルフはどう思う?」

「ウルフ様、これから長く生きていくと、どうしても年下になってしまうことをお忘れなきよう……」

「ウルフ……分かっているにゃよね?」

「ウルフちゃんはそんな節操なしの、変態じゃないよね?」


 いつもならこういう話には参加しないか、おっさんの肩を持つルルアーシュが、珍しい事に今回に限り積極的に発言を行うどころか、おっさんとは対極の立場をとっている――もしかしたら、生前に覚えがあるのだろうか……


 全員からの圧力に……


「にゃっ?にゃんの事ですか?鎧が重くてしんどかったですにゃ」


 ウルフは……鎧を脱ぐ事に必死で聞いていなかった。どうやらカッコ付けるために、重たい鎧を無理して着ていたらしい。


「で、当の本人は戻ってきていない?」


 そう、ローガスは天空にはいなかった。


「呼び戻して、謝るにゃっ!保は、これまでのローガスの仕事ぶりを見てにゃいのかにゃ?可哀想にゃ……」

「仕事を放棄するかも知れませんね……」

「くっ……」


 アルとルルアーシュの言葉に、おっさんは声を詰まらせた。

 確かにこれまでの献身ぶり……ほとんどローガス任せでやってきたおっさん。更に仕事をボイコットされたなら、これから大変になる事は間違いない。


「わ、わかったよ。召喚!ローガス」

「おうっと……何かございましたかな?」


 現れたローガスはいつもと何も変わらない表情と口調だった。ただ、上半身をはだけ、ところどこにキスマークらしきものをつけているが……


「何もないけど……何してた?」

「ロリコンハーレムの化身らしく、若き乙女たちと戯れていただけでございますが?ハーレムの1人とね」


 めちゃくちゃ開き直っていた。


「た、保、謝るにゃ」

「ロ、ローガスごめんね?冗談だよ?」

「保様、謝って頂くことなど何もございませんよ。それよりも、何も用がないようでしたら、戻りたいのですが……まだまだ相手は沢山いますゆえに。なんて言ったってロリコンハーレムの化身ですから」


 ローガスさん、激おこである。

 一見にこやかに見える表情だが、目が一切笑っていなかった。


「保にはちゃんと訂正させるにゃ」

「ええ、大磯様にはしっかりと言って聞かせますわ」

「あぁそうそう、保様。明日の予定は朝からダンジョンでよろしいのです?」

「あっ、うん……」

「では明朝戻ります。さて、化身らしく続きをして参ります」


 嫌味を言い残して転移して消えていったローガス……とりあえず仕事はこなしてくれるようである。

 そして状況的に、完全におっさんは悪者になったようだ。

 ――人間、誰しも開き直ると強いものである……まぁローガスはヴァンパイアだが。


 静かなる怒りにあてられたおっさん。

 慌てて職場まで走り、マイクを握った。


 <ピンポンパンポン!先程の、ローガスは慈愛とロリコンハーレムの化身とは冗談です。神ジョークです。慈愛の化身です。神の右腕ともいえる存在です>


 お気軽放送局と成り下がった神の啓示システムで、先程の言葉を冗談と取り繕うおっさんだった。

 ――どんなに慌てていても、冒頭のピンポンパンは外さないおっさん……やはり魂に染み付いているようだ。


「ふぅ……これでいいかな?」

「いいと思うにゃ」

「誠意は伝わったかと思われます」

「そうかな……」


 これで後はローガスの機嫌待ちとなると、一安心したおっさん。

 だが彼はわかっていない……世界の人類全てがメディアから情報を得る訳では無い事を、生中継を見ておらず、未だ発言内容を知らない者がいた事を……

 つまりその、何も知らない彼らにとっては、ロリコンハーレムの化身という言葉は、冗談とか神ジョークなどという言葉より衝撃的で記憶に残りやすいという事である。即ち、ローガスはロリコンハーレムの化身であると、念押しした形となるのだ。


 肝心のローガスのご機嫌であるが……日を追う毎に、どんどん良くなっていった。それはおっさんの言葉に気を良くしたというだけではない。

 なぜか?それはローガスの姿を見た夜の女性たちが、魅了されファンクラブやファンサイトなどが作られたのだ。

 ――おっさん、謝らされた挙句にローガスのハーレムをナイスアシストという結果となり、踏んだり蹴ったりである。


 そして後日、おっさんたちの立像が作られた際には、ローガスの像に熱狂的な信者が山ほどつく事になる。更には主神たるおっさんの立像より、ローガスの像の方が多く作られる事となるとは、未だ誰もが予想していなかった。

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