第42話ーーおっさん見つける

 おっさんが再びダンジョン踏破に乗り出した。

 その日、日本各地で大騒ぎとなった。

 それもそのはず、同時に全国5箇所の都市部にドラゴンに乗って現れたのだ。

 そしてドラゴンをダンジョン入口に下ろし、それぞれきっちり1時間で点滅状態へと変え、また次の箇所へと乗り付ける。

 怒号、悲鳴、歓喜入り混じる声の中、それに反応を一切見せることなく、淡々と踏破を繰り返す。

 7時間後、つまり7箇所の踏破を終えると、それぞれが突然姿を消した。

 そしてまた翌日現れ、同じ繰り返し……

 2日間で計70箇所のダンジョンを踏破した。これは日本に存在するダンジョンの約半分である。


 踏破をより強く望んでいたのは、山間部や過疎地域の人々である。

 だが3日目に現れたのはイギリスとのテレビ報道を知ると、神にも見放されたと絶望した。


 だがこれは決して見放されたでは無い。

 ここのところ成長目覚しいおっさんに考えあっての策略なのだ。

 現れる前、各地ダンジョンに潜る探索者たちを探った一行。それによると、現代に現れたゴールドラッシュさながらに一攫千金を未だ夢見る者たちが多く見受けられた。そして彼らは自分が潜るダンジョンの踏破は、期限ギリギリまで止めて欲しいと願っていたのだ。もし、その者たちがホームにしているダンジョンを踏破したらどうなるか?きっと残っている場所へと向かうだろうと予測できる。

 そこでおっさんは閃いた。

「そうだ、人不足などで喘ぐ、過疎地域の活性化に繋がるのではないか?」と。なので、決して以前踏破した際に暴言を吐いて来た事への意趣返しなどではなく、探索者が多い都市部ばかりを集中的に踏破したのだ――隠し部屋を全て見つけたり、モンスターを根こそぎ倒し、どんなに小さなドロップ品も全て拾うように指示して、ニヤニヤしていたのも……決して意趣返しなどではないはずだ。海や発展途上地域では、一切そんな指示をしなかったが……


 世界各国のダンジョンも、基本的は都市部ばかりを集中的に踏破していく。

 各国政府としては、探索者たちがより集まりやすい都市部よりも、人口が少なく軍の兵士たちを積極的に回さざるを得なくなっている山間部や田舎を優先的に踏破される事を願う。

 おっさんたちの動き……都市部ばかりに現れる事が判明すると、自国に現れたと知るや否や、各都市部ダンジョン近くにいる探索者たちへと呼びかけ、入口を人で封鎖して他方へと促そうと画策するようになった。

 最近2回の神の啓示での様子から、元は人間だという事から、『きっと人々を蹴散らして、殺してまでは行わないだろう』と、希望的観測を持っていた。

 確かにそれは有効だった……おっさんには。

 アルやウルフは、宙から入口に向けて大声で「危にゃいにゃよー!潰れるにゃよー」と警告し、それでも退かない者たちには警告はしたとばかりに無理矢理ドラゴンを着陸させて突入を行った。

 ローガスとルルアーシュは、冷たい目で見下ろし「愚か者がっ」などと鼻で笑い、ドラゴンを入口に突っ込ませたり、時にはブレスを人混みに撃ち込む事を厭わなかった。

 おっさんは、当初は躊躇していたが、座り込んだりしている者の、してやったり顔を見てからは、宙にドラゴンをホバリングさせて単身突っ込むようになっていた。


 そんな殺伐とした日々を1年ほど送ったある日の事である。

 地上監視用モニターで人々の反応を確認していたところ、ある建造物に目が止まった。

 それは、おっさんの立ち姿っぽい銅像である。左右には2匹の太っちょ猫と、成人男女2名の立ち姿の銅像。


 おっさんの神への進化と啓示により、これまでの宗教観は覆された。遥か昔にいたと言われる、目に見えぬ神々ではなく、すぐそこに実在する神。それは確かに存在し……いや、それどころか世界中にしょっちゅう現れ飛び回っている。確かに戦争禁止をハッキリと命令し、人々を救ったりもしている。そうなれば新たにいくつもの宗教が立ち上げられ、おっさんたちの偶像を制作するようになるのは、当然の流れとも言えるだろう。


「うーん、似ている?まぁ似ているか……」

「にゃんにゃ、あれは!全く似てにゃいにゃっ!可愛さが全くにゃいにゃっ!」

「ふむ……どこにでもいる顔ですな」

「人間種は直ぐに偶像化するのですね」

「アルと顔が全く同じにゃ……ウルフはアルのように太ってにゃいにゃ」


 おっさん以外、それぞれ不満のようである。特にアルとウルフはぷんぷん怒っている。そして……


「大磯さんと眷属なのに、何で私がいないんですか!」


 地上に現れる事の無い事で、自分の立像がない事に新木は激怒していた。

 ――実際のところは、地上では新木とルルアーシュは同一視されており、銅像になっているのは新木なのだが、度々地上に降りる5人丁度という事もあり、わからなかった。


「変更を求めるにゃっ!」

「断固として受け入れ難いですにゃっ!」

「私の魅力が出るようにとは、難しいのですかな」

「……」

「私の追加を求めますっ!」


 喧喧囂囂、おっさんに詰め寄り変更を求める眷属4人。


「偶像なんてこんなもんじゃない?ほら、ブッダ像とかもそれぞれ違うし。キリスト像もみんな顔がちょっとずつ違うしさ」


 おっさんの言う事ももっともである。


「自分はそこそこ似てるからって、納得出来にゃいにゃ」


 そう、おっさんはメディアに出る事が多かったので顔写真が山ほど存在するために、そこそこ似ているのだ……いや、ちょっと美化されていた。そのためおっさんは大満足である。だからこそ眷属たちの訴えにも、他人事だったりもする。


「でもそんな事言っても、どうしようもなくないかな?」

「記者会見するにゃっ!」

「それっ!アルちゃん頭いい!そこで全員を紹介してくれればいいんですよ」


 神の記者会見とは、前代未聞である……いや、自称神は現れるので、そうでもないのかもしれない。


「記者会見必要かなー?そのうち理解してくれるんじゃない?」

「あんな不細工なのが残るのは許せにゃいにゃっ!乙女の恥にゃ」

「もっとカッコよくして欲しいですにゃ。剣とか構えるのもありだと思いますにゃ」


 呑気なおっさんに、顔を真っ赤にして詰め寄る3人……アルとウルフに新木。

「剣とか構える姿」とは、ウルフも男の子だったと思うべきなのか、それともついに……


 その日夜中まで、食事時も風呂の時も記者会見を求められたが、おっさんは意外にも首を縦に振らなかった――過去の記者会見などで受けた暴言などを思い出し、忌避感があったのだ。


 だが翌日、おっさんは記者会見をする事を決めた。

 その理由とは……明け方に転移してどこからか戻ってきた、満足気な顔をしたローガスの姿を見つけたためである。

 嫉妬は忌避感を吹き飛ばしたのだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る