第17話ーーおっさん復活する

「フハハハハハハ」

「にゃはははははは」


 部屋付きダンジョン99階層、獣たちの悲鳴が響く中、おっさんとアルの高笑いがこだまする。


 本日は新木・ローガス・ウルフは低階層でレベル上げを伴った、オーク肉の仕入れに行っている。

 オーク肉はガイン夫妻からの要望があったからなのだが、当初は全員で行く予定だった……だったが問題のオークである、暴走中年再びの可能性が高い。半神になった今、豚神として崇め奉られる事もありそうだが、それはそれで破壊神にモデルチェンジする事は間違いないので、アルの誘導により2人で90階層以降でドラゴンの肉を求め走り回っているのだ。


「ドラゴンクローにゃっ!」


 もちろんアルの種族が変わったわけではない、いつものカッコイイと思う言葉を叫んでいるだけである。


「ブレストファイヤーッ!」


 ロボットでも、胸から炎を出している訳でもない。語感だけで叫び魔法を放つおっさんである――だいたいあのアニメの主人公のように勇気があるわけではないし、誰かにパイルダーオンした事も無い。


 おっさんとアルは楽しんでいた。疑問を投げかけてきたり、不思議そうな顔をする3人がいないので、言いたい事を叫び放題なのだ。病は禁断症状を生んでいたのではないかと、首を傾げたくなるほどはしゃぎまくっている。


 ここはダンジョン、侵入者を敵とみなし誰であろうとも襲いかかるはずのモンスターが悲鳴と共に逃げ惑う中、奇声を発しながら追いかけ叫び討伐する末期患者2人。モンスターたちにとっての災難が訪れていた。


「楽しいにゃ」

「うん、久しぶりに楽しい狩りって感じだね」


 2人は主のいなくなった95階層ボス部屋で、休憩しながらしみじみと呟く。

 どうも最近はウルフや新木に気を使ったり守りながら戦ったりなので、なんだかんだで狩りを楽しむ事が出来ていなかった模様である。


「それにしても……保が半神にゃか。出会った時には思いもしなかったにゃ」

「うん、俺自身がそうだよ。その上テイムが眷属になっちゃって、アルまで永遠に生きる事になっちゃってごめんね」

「それは気にしなくていいにゃ、その分楽しむにゃ」


 小休憩のはずなのに、大量の飲食物を出して平らげながら話す2人……もう体型の変化が訪れなくなったおっさんに、食への遠慮は一切ない。アルはいつも通り、いやおっさんに対抗するように、いつも以上にその身体のどこに入るのか?大食い系YouTuberもビックリな程に食べている――アルの身体はかなりふくよかになりつつあるが、今はまだ誰も指摘していない……一応乙女なので言い難いのだ、一応。


「そういえば、ウルフはどうするのかな?このままケット・シー・キングでも目指すの?」

「うーん、このままだとそうにゃるにゃ」

「って事は結婚?」

「それとはまた話が別にゃ、種族と結婚は関係にゃいにゃ」


 アルさんとても冷静である。

 付き合う=結婚とすぐ結びつける、旧時代的発想のおっさんとは大違いである。


「じゃあ結婚はしない?」

「……最近色々新しくアニメを見たにゃ。そしたら、異世界に行ったらハーレムが一般的みたいにゃ」

「ハハハハハーレム!?」

「アルは異世界から来たから、それに従うのも一興だと思うにゃ」


 ついに野望を明らかにしたアル。

 おっさんはそれを聞いて、めちゃくちゃ動揺しつつも若干羨ましそうな顔をしている。


「ウ、ウルフは大丈夫なの?」

「もう飽きたにゃ……ウルフはウルフで楽しめばいいにゃ」

「あ、飽きた!?」

「それにもう……大きくなりす……にゃんでもにゃいにゃ」


 確実に年齢的な事を言っていたが、おっさんの耳には届いていなかった。男なら1度は言ってみたいセリフ「もう飽きた」を言われショックを受けていた。


「飽きた……飽きた……」

「た、保もハーレム目指せばいいにゃ」


 虚ろな目でアルの発言を繰り返すおっさん。つい先程異世界だからどうのこうのと言っていたくせに、生まれも育ちも地球産のおっさんに提案し始めた……少しは自分の発言に思うところがあったのか、それとも思わず言いかけた自らの業を誤魔化すためか……だがその提案はどうかと思う――新木とそこそこ仲がいいはずなのに、新木の以前からの想いを知っているのに、自分の欲望を満たすためにサクッと裏切ったアルである。


「ハハハハハーレム!?おおおお俺が!?」

「にゃ、保は半神だし、強いんだから許されるにゃ」

「でででででも……」

「一緒に目指すにゃ」

「いいのかな?」

「いいに決まってるにゃ」

「「ぐふふふふふふふ」」


 元々、ダンジョンが出来た頃はハーレムなんてものも夢見ていたおっさんである。そしてここに志を同じくする者が現れたばかりではなく、背中を押してくれるのだ、気持ち悪い笑いを漏らすのも仕方ない事だろう――アルはともかく、ハーレムと呼べるほどの数のおっさんに好意を向ける新木のような特異な女性がこの世にいるかどうかは別として……


 重度の厨二病末期患者であり、ハーレムを夢見るヤバい2人のくぐもった笑い声が、ダンジョンボス部屋内に響き渡る。


「そうと決まったら、早速猫島に行くにゃっ!」

「おー!……ってアルはそれでいいかもだけど、俺は?どこでハーレム要員を探せばいいんだろ」

「そんなの簡単にゃ、普通のダンジョンに行ってい、女の子を数人連れて踏破すればいいにゃ、きっと保の強さにメロメロにゃ」

「おおっ!アル頭いいっ!」

「それほどでもにゃいにゃ」


 ローガスに出会う前……いや知恵をつけた上に力を得てしまった最悪のコンビが復活してしまったようである。


「じゃあ、行くにゃっ」

「おー!」


 2人は何を妄想しているのか、気持ち悪い笑顔を浮かべ意気揚揚と部屋へと転移した。

 その勢いのまま出掛けようとしたのだが、部屋のリビングには全員が揃っていた、ガインミルカ夫妻まで。

 挨拶をしながら玄関へと向かう2人に、当然声が掛かる。


「どこ行くの?」

「ちょ、ちょっと散歩に行こうかな〜とか?」

「えっ?もう夜ですよ?まもなく夕食ですし」

「「えっ?(にゃっ?)」」


 どうやら久しぶりに周りを気にすることなく叫び戦い、妄想に頬を緩めまくっていたせいで、すっかり時間の概念を忘れ去っていたようだ。


 旺盛な食欲を知られている上に、後ろめたさから外に出る事は叶わなくなった……幸先悪いと落ち込みながらも、1度咲いた妄想は止まらずニヤけ続ける2人。

 ――その姿はとても……とても気持ち悪かった。普段おっさんに従順な態度を見せるルルアーシュさえ引くほどだった。

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