第16話ーーおっさん疑われる

「保……あれだ、何があった」

「大丈夫?何か辛いことでもあったの?」

「お兄ちゃん、ついに……」

「ははは……義兄さん、贅沢のし過ぎで何か勘違いされたんです?」

「おこずかいください」


 おっさんは今実家に来ている。護衛のヴァンパイアと変更する為の道具を渡しに来た為だ。

 そして開口一番に言った言葉が問題だった。


「俺、神になっちゃった」


 なんて言ったものだから、家族が心配するのも無理はない。

 良くて厨二……、まぁこの年齢なので遂にイカれたと思われたのは当たり前である。逆にそう思わない方がヤバイだろう。


「いや、頭がおかしくなった訳じゃなくて、本当に神になったんだって!まだデミゴッドではあるけれど」

「保、現実逃避は止めなさい」

「童心を忘れないって言えば、まだお嫁さん来てくれる可能性も……」

「お兄ちゃん、本当に神様なら私に宝くじ当ててよ」

「確か今キャリーオーバーしてるはず」

「げんきんください」


 誰もが可哀想なものを見つめる目で見ていた。そして妹夫婦は相変わらずの守銭奴ぶりだった――甥っ子は守銭奴へのエリートコースにしっかり乗っているようでもある。


「うーん、信じて貰えないだろうけど……本当なんだけどな」


 真実には違いないのだが、それを信じて貰う術はないのも事実である。

 そしておっさんは諦めた、言えば言うほど5人の視線に耐えられなくなってきたのだ。甥っ子に太ももを叩かれながら、「生きていればいい事もあるよ」なんて言われたのがトドメだった。


「うん……と、とりあえず今日来た目的は違うんだ」


 悲しみに耐えつつ、強引に本来の話題を持ち出した。そして護衛の代わりに道具を持ってきた事を伝えたのだが……


「なんなんだあいつらは!変な格好でウロウロウロウロと!」

「近所の皆さんにヒソヒソ噂されているし、親戚のみんなにも文句言われたわ」

「うちもそう!最近ご近所さんがよそよそしくなった」

「会社まで付いてきて……ウロウロされるのはちょっと……出世にも響きそうですよ」

「ようちえんでふしんしゃ?に気をつけなさいって言われてたよ」


 今度は皆さん大激怒である。かなり迷惑しているようだ。


「えっと……それでも彼らはみんなを守ってくれたんだよ?」

「誰からだ?」

「そんな人来てないわよ?保の考えすぎじゃないかしら」

「お兄ちゃん人間不信すぎだよ」

「下手に大金を持ってるからじゃないですか?ここは1つ分けてみるとか……」

「おじちゃん、だいじょうぶ?」


 接触前に全てガードしているのだ、恩恵を感じていないのは仕方がないだろう。現実としては、山ほどのスパイなどを捕まえたりしていたのだが……家族でこれなのだ、親戚はもっと口々に悪し様に言っているだろう事は、想像に難くない。

 もしおっさんがアイテムボックスに眠る大金を放出していたなら、態度や言動は全く違うものにはなるだろうが、それはそれでまた新たな問題を引き起こすだろうが……


「いや、本当に来ていたんだけどさ。まぁ接触前に止めていたからわからないよね。で、警察案件にもなってるし、神様にも言われたので……みんなを害意から守る為の道具を用意したので、親戚とかにも配って欲しいんだ」


 道具を出しながら説明を重ねるも、誰もがおっさんの事を呆れた目で見ていた。唯一食いついたのは、妹の旦那と甥っ子だった。


「義兄さん、これ着けてダンジョンに潜れば稼ぎ放題って事?」

「いや、説明した通りに人からしか守れないよ」

「……じゃあ意味がないじゃないですか」


 不貞腐れたように、手に取った指輪型道具を放り投げた義弟。

 逆に甥っ子は嬉しそうにネックレスを手元で弄っている。これまで装身具を触ったりしたら母親に怒られただろうが、今は堂々と触れるのだ、喜びもするだろう。


 何を言われようとも、大事な家族の身の安全を守る為には受け取って身に着けて貰わないと困るおっさんである。ブツブツと文句をいう一同に対して一生懸命説得し、何とか1人1つの物を選んで貰ったのは、道具を出してから数十分後の事だ……説得の決め手は、「最近日本も治安が悪くなってきたので」というダンジョンも何も関係ない話題だった。

 ――もし信用せずに着けずにいた方が、逆に話の信用性が高まるかもしれない……なんて黒い心がおっさんの中に生まれたのも致し方ないだろう。


 道具も渡した、微塵も信じて貰えてはいないが半神になった事も話した。ミッションは完了したので、そろそろ帰ろうかとおっさんが思い始めた時だった。


「ねえ、記者会見見たんだけどね、隣にいたあの子……新木ヒロコさんはどういう関係なの?一緒に二人っきりでダンジョンに潜るって事は、もしかしてそうなの?」


 やっと聞けるといった表情で、母親が身を乗り出して質問をし始めた――母親だけじゃない、父親も妹も言葉をじっとまっていた。おっさんの初めての春が、もしかしたら来たかもしれないのだ、それは気になるだろう。しかも相手はそれなりの美女なのだから。


「あっ、うん……お付き合いさせて貰ってるよ」


 一気に顔を赤くし、モジモジしながら話すおっさん。


「まぁまぁまぁまぁっ!いつどこでどうやって知り合ったの?いつから付き合っているの?どうして今日は連れてきてくれなかったの?付き合い初めてどれくらいなの?」

「……そうか」

「お兄ちゃんの思い込みとかじゃないよね?」


 満面の笑みで怒涛の質問を繰り出す母親と、ほんの少しほっとした表情を見せ頷く父親。妹だけは懐疑的な表情を見せていた。


 しどろもどろになりながらも、何とか全ての質問に答えるおっさん。その一語一句に大喜びの母親。

 妹は旦那と顔を寄せあい、「スキルとかで洗脳とか魅了ってあるんじゃない?」とか「どうやって騙してるんだろ」「お金の力だろ」とか失礼な事を言いまくっていた。

 ――悲しい事に、妹夫婦の意見は記者会見を見た世の中の大半の意見だったりもする。


 最終的には、1度新木を家に連れてくる事を約束させられたのは言うまでもないだろう。


 精神的に疲弊しまくって自宅へと帰ったおっさんだったが、同じように1人で説明をしに実家へと向かった新木は、その日戻ってくる事はなかった……

「大磯さんが神になったから、私も神になるのを目指す」なんて言ったからだ。やはり頭の中を疑われ、何か精神的な病気に罹ったのだろうと心配され両親が帰してくれなかった。

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