第15話ーーおっさんペットを飼う

「アル様ありがとうございます」

「いいにゃいいにゃ」


 ルルアーシュがアルに礼を言ったのは、部屋の件である。

 新たな仲間であるルルアーシュがどの部屋で寝るか問題になった。本人は「大磯様のお部屋で……望んで頂けるなら同じベッドでも」などと言うし、それを聞いた新木が目尻を上げて反対し、大騒ぎになったのだ。そこで暫定的に、おっさんの家の中にあるアル部屋をルルアーシュへと貸与する事をアルが提案したのだ。

 本来の当事者であるおっさんはというと……案の定、言葉から妄想し想像してにやけているだけで、全く役に立たなかった――なぜこんな男に……とは思うが、新木は新木で残念なアラサーであるし、ルルアーシュはあくまでも半神であるおっさんに仕えているだけである。


 その日から1週間、ルルアーシュは守る為の装身具型道具作製を行っていた……余りにもヴァンパイアヒップホッパーの怪しい行動により、遂には警察官が各家庭や個人の警護に付くようになった為だ。それでも警護がカバー出来ていない接触者から守ったり排除を行い実績は上げていたのだが、事前説明していた各家庭からも、苦情の電話が相次いでいた――陰ながらに守られていて、その被害を目の当たりにしなければ、実感がない為に文句を言うのが人間である。

 それを聞いたとある半神に仕える眷属2人が、「下等生物がっ」と吐き捨てるように呟いたり、「やはり塵芥を滅ぼし、保様が統べましょう」と気炎を発したとかしなかったとか……


 それはともかくとして、道具が完成するまでの間のおっさんたちはというと、5人で下層にてレベル上げ件肉狩りをしていた。


 その際に先日龍神の件で知った、召喚ドラゴンの移譲も行った。もちろん空いた各色ドラゴンをすぐさま埋めるために、おっさんが契約に走ったのは言うまでもない……戦闘用でも騎乗用でもなく、ただのコレクションドラゴンである。

 そして思い出される龍神という失った召喚獣。神に頼まれた事もあるが、魔力足らず召喚する事も出来ないので、これまたコレクション以外の何ものでもないのだが……それでも1度得たものを失うのは、寂しいものなのだ。


「召喚!龍神!」


 こんな事を呟いてしまってもしょうがないだろう……未練だらけのおっさんなのだ。


「はーい。あっ、先日はどうもです」

「えっ?」


 何故か軽い返事と共に現れたのは、全長50cm程の姿の龍神だった。


「な、なんでいるの?」

「えーっ?呼ばれたからですよー」

「いや、神様に移譲したはずだよね?」

「あっ、そういえばそうですね……何でだろ」


 以前遭遇した時と同じく、相変わらず言動が数百万年生きたとは思えないほどに幼いのだが、前回とは違い身体が小さい事もあって似合ってた……そして可愛かった。

 思わず辺りを見渡して、他のメンバーが居ない事を確認してしまったおっさんは正しい。それほどまでに可愛かった……ぬいぐるみのようで――この召喚獣の存在意義はおいといて。


 理解できないことは、悩むより聞いた方が早いということで、すぐさま部屋に戻りルルアーシュ経由で神様に連絡をとったおっさん。

 その答えは……龍神が召喚陣を受け入れること自体が前代未聞のために不明。推測ではおっさんと龍神に繋がりが出来た為に起きている現象だろうという事だ。召喚した際に、本体そのものは神界に存在している為に、龍神の力の残りカスみたいなのが顕在化しているようである。

 つまり理由はわからないが、おっさんのコレクション欲を満たすだけの、可愛いペットが出来たという事である。

 ちなみに神様との連絡方法は、おっさんのスマホに<神様です>との表記でかかってきた。番号は表示されない為に、おっさんから掛けることは不可能である。


 その日を境に、おっさん部屋からこそこそした話し声や、キャッキャと騒ぐ声が聞こえてくるようになった。そしてペットの存在がバレるのも必然である。

 だが、恐れていた事態……誰かに龍神を奪われるという事件は起こらなかった。なぜなら、可愛いという評価はあったものの、みんなカッコイイ方が好きなのだ。手も足も身体もまん丸でコロコロした龍神は、誰の琴線にも触れなかったようである。嬉しくてアイテムボックスの中の料理をこれでもかと食べさせた結果、太りまくったのだ――おっさんはペットを飼ってはいけない人種だった……まぁ戦う事も動く事もないので問題ないのかもしれないが。それに飼い主とペットは似るともいうし……


 そんな何の役にも立たないミニデブ龍神ではあるが、後日神様の手によって世界中のダンジョン位置をナビする能力を得ることなった。

 これは世界各国が発表していなかったり、秘境にる為に見つけられて居ない場所、海中のものを見つける為に必要だったのだ。

 ただ……あくまでも案内だけで、突入寸前に送還していないのに勝手に消えるのだが。



 まぁメタボ中年とそのペットの話は置いておいて、ルルアーシュが完成させた道具は

 <守護の指輪 効果:悪意ある攻撃や接触から身を守る。対象:人間種>

 というものだった。

 触れられたり攻撃を受けたら守られるが、詐欺などの甘言は防げない物である。


 世界中のどこにもない、唯一無二の道具が作製された訳だが、世界各国の上層部の考え方は、時と共に大きく変わりつつあった。

 それは、ダンジョン産の魔晶石などのドロップアイテムが新たな発明を産み、商業化される事に旨味を感じ始めていたからだ。

 現在世界で唯一踏破されたダンジョン……もちろんおっさんたちがしたものだが、そこにあったのは確かに地球上に存在しない草花だった事には間違いない。だがそれならば各ダンジョンにも生えている事に気が付いてしまったのだ。他のドロップアイテム+自生している物の方が収穫が多いと考えるのは必然である。更にそれに伴い自国兵士を鍛え上げる事が出来るのだ。ダンジョンを急いで踏破する必要性を感じなくなっていた――もしスタンピードが起きなければの話なのだが。


 良くも悪くも、おっさんたちは世界を変容させてしまったようである。

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