第11話ーーおっさん新たな仲間を得る

「……申し訳ない、ちょっと感情的になってしまったよ」

「いえ……」

「でもわかってくれて嬉しいよ、やっぱり大磯くんも苦労したよね」


 おっさんは大変そうという感想は抱けても、共感する事など出来もしない、なぜなら万年平社員だったから……特にダンジョン攻略を科せられてから直ぐに会社を辞めた身としては、その中間管理職にプレッシャーを与えた方でもある――おっさんが会社を辞した事が、上司に本当に害を与えたかどうかは別として……


「でだ、君もまた進化出来る訳なんだけど、お詫びも兼ねて3階級特進でこっち側来ちゃうのはどう?」

「こっち側?」

「うん、僕たちと同僚になるのはどう?最初から管理神は無理だから、まずは生物創造とかからになるけど」


 まさかの神様への勧誘であった。

 神への進化条件も気になるどころだが、おっさんがもっと気になったのは、だ。


「生物創造とは?」

「それはね、絵を描いて条件付与して、小さな世界に放って進化過程を見るんだよ。もし面白い進化や、目を見張る文化形成などするなら、他の既に存在している世界に放ってみたりするんだ……そうだな、地球世界は現在人間種ばかりだから分かりにくいかもだけど、先程君が一緒にいた、ケット・シーの子たちの世界はそういった生き物は沢山いたよ。ダンジョン内も投入場所でもあるね」


 まるでゲームのようだ。

 ただ「分かりにくい」という言葉は、まるで新生物が存在していると言わんばかりである所が、気になるところである。


「絵ですか……」

「うん、絵を描く人、それを粘土みたいなもので立体的にする人など担当は別れているけどね」

「いや……まだ父や母もいますし」

「そうだよね……本当に人が足りないからさ、その気になったらいつでも言ってね」


「恋人がいるから」ではないのは、おっさんの心に何かの変化があったのか、それともただ単に「親より先に逝くのは……」からなのか。

 何にしろおっさんが神になるのを了承しなくて良かった。もし頷いて、神になんてなっていた日には……見ぬ世界、いや地球世界のそこらかしこでクリーチャーが生まれる事になっていただろう。


「神様っていうのは、進化でなれるものなのですか?」

「うん、全員が全員進化からなった訳でもないけどね。ひとつの方法かな」

「私は……龍神の件ですか?」

「違う違う、大磯くんの場合はね……まず人間種から進化していた事、そして今回またレベルが達している上に、純潔であった事が原因だね。地球世界からの自力進化条件達成は初めてじゃないかな」


 おっさんが頑なに守ってきた……守ってしまっていた純潔は魔法使いではなく、神様になる条件だったようだ。

 ――人類史上初の快挙である……そこに羨ましさを感じないのは、きっと気のせいだろう。


「じゃあ、今回は普通の進化だけでdemigodだね。わかりやすく言うと半神だけど、こちら側所属ではなく地上世界所属となるよ」

「何かお仕事が?」

「特にない……かな」


 デミゴッドという言葉に浮かれるおっさんだったが、ふと仕事を割り振られるのではないかと怯えもしていた……今さらサラリーマンはもう無理なのだ、自由に過ごす事に慣れすぎてしまっていた。


「そうですか……」

「あからさまにほっとしないでよ……あー僕も仕事辞めたい」

「お疲れさまです」

「ありがとう……まぁ嘆いてもしょうがないからちゃっちゃと話を進めようか。まず大磯くんの魂に付けられたダンジョンなんだけどね、前担当者が無理矢理魂に紐付けしちゃったから、もう外す事は無理なんだ」

「そんな事も言ってましたね……このままでいいので肉が出るようになりませんか?」

「肉?」

「ええ、外のダンジョンは肉が落ちるらしいんですけど、私のダンジョンでは落ちないので」

「それくらいなら変更可能だからしておくね」


 願うのが肉……よっぽどアルの羨望の声が身に染みていたようだ。


「あと、相談がありまして」

「ん?お詫びもあるからなんでも言ってよ」


 今回ダンジョン踏破したのはヴァンパイアヒップホッパーたちが不審者扱いされ護衛が難しくなっている事が原因なのを思い出したおっさん、忘れない内に相談する事にした。


 おっさんたちが現在地球上でおかれている状況と、懸念事項。相手は神様だというのに、事の発端から細かく説明するのは、相手が神様だからこそ、地上の些事など知らぬであろうという考えからである。

 おっさんの考えはあっていたようで、時折「へーそんなことに」など相槌を打つ神様だった――時にはおっさんもちゃんと考えるのである……たまにだが。


「君のテイムしているケット・シーやヴァンパイアはまぁいいけど、現状地球世界に違う種が放し飼いになってるのは問題だね……うん、じゃあそうだね、大磯くんは半神にもなるわけだし眷属を付けようか」

「眷属?」

「うん、地球世界でいうところの天使みたいなものかな。道具作りが得意なのを付けるから、それが作ったのを君が守りたい相手に渡せばいいよ、渡し終わったところでウロウロしているヴァンパイアたちは違う世界に飛ばすから」


 おっさんに新たな仲間が加わるようである……強制的に。


「どんな方なのです?」

「あーすぐ呼ぶからちょっと待っててね」


 そう言うと、コーヒーを取りに行った時のように扉から外へ出て行き、数分した頃1人の女性を連れて戻ってきた。

 その女性は、美しい黒髪を肩まで伸ばし、ふっくらとした唇に柔らかい目付きに通った鼻筋……可愛い系の女性だった。


「この子付けるから……って見えてるかな?」

「あっはい」

「良かった、天使で見えないとなるとどうしようもなかったよ……では挨拶して」

「初めまして大磯様。私の名はルルアーシュでございます。この度は私の愚兄が多大なるご迷惑をお掛けした事を深くお詫び致します」

「愚兄?」

「そっ、この子は大磯くんに迷惑をかけた前担当者の妹だよ」


 新たな面倒事の予感しかしないが……おっさんはルルアーシュに見蕩れていて、気付きもしなかった。


「お、大磯保です、ルルアーシュさんよろしくお願いします」

「私の事は是非ルルとお呼びくださいませ」

「この子は道具作りや料理作りは得意だからね、色々任せて大丈夫だよ」

「末永くよろしくお願い致します」


 まるでお見合いである。

 料理が得意……知らぬところで新木は大ピンチの模様。


「大磯くんは気に入ってくれたようだね、良かったよ。今後もし僕に連絡したい事があったら、この子に言ってくれればいいからね」

「連絡ですか?」

「うん、これから長い時間生きて……まぁ地球世界で生き飽きたらこっちの仕事を手伝ってくれてもいいしさ」


 何やら不穏な言葉があった……とは何なのか。


「……長い時間?」

「うん、半神だからね。これまで以上によっぽどの事がないと死なないし、寿命なんてないしね」

「えっ?」

「大磯くんは永遠の若……とにかくこの子も一緒だから大丈夫だよ」


 流石の神様も、おっさんを若いとは言えなかったようである。実に素直で人間くさい……残念な方向で。


 ともかく、おっさんは新たな仲間をゲットし、更には進化するようである。





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