第12話ーーおっさん誘われる
「あとは何かあるかな?」
おっさんはその言葉で再起動した。
永遠に生きるという衝撃にしばしの間呆然としていたようだ。
老化しないなんて、これまた世の中のあらゆる権力者に狙われそうな力である。
「死なない……?」
「んっ?もちろん傷付けられたら死ぬから気をつけてね……まぁ今の地球世界に君を傷付ける事ができる存在はいないけどさ」
「……」
「これからもダンジョン潜るだろうから、レベルは上がるし、あとはいつこちら側に来るかだけが問題だね」
「えっ?神にって事です?」
「うん、そうだよ」
「じゅ…じゅ純潔は……」
「あーもう好きにしても大丈夫。神になる条件達成しているからね」
おっさんはまだ夢を見ているようだ。
――まぁ永遠なる生を得たのだ、もしかしら……もしかしたらワンチャンあるかもしれない。
「私で良ければこの身体、思う存分お使い下さいませ」
「えっ?えっ?えっ?どういう事……?」
「私の全ては大磯様の物ですので、どのようにお使い頂いても結構です」
「……う、うん」
まさかの据え膳、チャンス到来である。だがおっさんの顔は真っ赤だ、固まっていて動けない――こんなんでよくハーレムとか言っていたもんである。
「あれ?ダンジョンに潜る?」
ここでふとおっさんは気づいた。
神様への連絡手段も得たのだ、部屋付きダンジョンを溢れさせないように間引きする程度で、もうダンジョンに積極的に潜る必要がなくなったはずだと。
……いや、神様の不手際と分かっているのだから、部屋付きダンジョン以外は除去されるのではないかと。
「あー、世界に固定しちゃってあるからさ、今さら突然無くすことは出来ないんだよ。だから……このままだと1000年後に滅亡しちゃうのも決定事項。時限爆弾みたいなものだね、あと998年の間にのダンジョンクリスタルを破壊しないと爆発だね。大磯くんはまだまだ地上で生きるって言うし、現状地球世界唯一の地上神だからね、頑張って解除しちゃってよ」
「えっ……」
どうやらダンジョン踏破を義務付けられた模様である。
「この子の兄、たった1人の兄……前担当者はこのまま地球世界が滅亡したら確実にクビ……即ち神界からの追放、輪廻へ直行なんだよね。今地球世界担当者は不在で、僕が暫定管理しているけど、仕事忙しいから構ってられないし、大磯くんに任せるよ。滅ぼすのもどうするのも」
「そ、そんな……」
神様のやり方がえげつない……えげつないがおっさんには効果的であった。ルルの方を向いて目をうるうるさせていた――当事者たるルルはおっさんに向かって頭を下げている為に、その表情はわからない。
「さてさて、話はまだまだしていたいけど、なんたって忙しいからね。もし用があったらこの子に言ってくれればいいし、この辺でいいかな?」
「えっ?あっ……」
「大磯くん的にはここに来て数十分だと思うけど、地上世界はあれからもう18日ほど経ってるし、そろそろ戻った方がいいね」
「18日?……浦島太郎」
仕事などないと言っていたにも関わらず、無理矢理押し付けられたダンジョン踏破と地上世界の管理っぽい事……怒涛の展開におっさんは着いていけてなかった。何とか食いつけたのが既に18日経過しているって事だった。
「浦島くんか〜懐かしいな」
「えっ?ご存知何ですか?」
「うんうん、前にさ〜仕事が嫌になって逃げ出した同僚がいてね、そいつが次元潜航船に乗って地球世界に行ったんだけどさ、渚でバカンスしている間に浦島くんがその船に乗って遊んでいる間に起動させたもんだから、こちらの世界に来ちゃったんだよ」
神の世界の仕事とは、よっぽどブラックのようである。
「竜宮城は……」
「竜宮城?何それ」
浦島太郎は竜宮城で、キャッキャウフフして楽しく過ごしたという、キャバクラの元祖みたいな話を絵本で読んだ事を話すと、神は大きく笑いだした。
「何それ、彼そんな事言ってたの?後でネタにしようっと」
「えっ?違うんです?」
「不法侵入者だからね、牢で怖ーい人達に責められ続け、故意の不法侵入ではないという事と、脱走者との関連性もないという事が判明してから解放したんだよね」
知りたくなかった真実。
まぁ得てして、伝説や逸話などはそんなものが真実であるのが大半だろう。
だがおっさんは浦島太郎に同情していたい……被害者仲間というシンパシーを感じていた。
「いやー楽しい話を教えてくれてありがとう。じゃあまたね……あっ、向こうの世界に戻ったら進化始まるけど1日で終わるからね」
「あっ、はい」
「この子と仲良くね」
おっさんはこの時気付かなかった。
進化にあたって、20日で少々の痛みがあるならば、1日で進化はどれほどの激痛を伴うだろうかを。
「では大磯様、これより末永くお側にお仕えさせて頂きますようお願い致します。こちらへどうぞ」
目の前の中間管理職の神様が出入りしていた扉とは違う、いつの間にか出来ていた新しい扉へと、ルルアーシュに誘われるおっさん。
その白く細い指に手を握られ……おっさんは赤面である。ドキドキしまくっていて、無理矢理押し付けられたダンジョン踏破などの事など、すっかり頭から消え去っている。
扉を出るとそこは、自宅リビングだった。
「さあ、
美女にベッドに誘われるという、初めての体験……夢にまで見た状況。おっさんの動きは固い……顔はこれまで以上に赤く、油のさされていないブリキ人形のような動きになっていた。「も、もう?心の準備が」なんて呟いている。
「大丈夫です、直ぐに終わります」
「す、すぐ……いや、頑張るよ」
すぐという言葉に目を泳がせるおっさん……何を頑張る気なのか。
「さあどうぞ」
「う、うん……下から……」
ベッドに横になるように言われ、仰向けになるおっさん……また大いなる勘違いをしている模様。
「アガッ……ガ……ガッ」
仰向けになって寝転んだ瞬間だった、まるで鈍器で頭を殴られたような衝撃と共に、全身をくまなく襲う激痛。痛みから気を失い、痛みで目を覚ます……それの連続である。
「あと5分で終わりますので、お気を確かに」
浦島太郎話のせいで、進化する時間も短縮されたようだ。
おっさんは激痛に身体を激しく捩り続ける。
その頃、おっさんが先程までいた神界の応接室らしき場所でモヤは笑っていた。
「単純な子で良かった、社畜根性もありそうだし、是非こっちに来て欲しいな」
やはり神界はブラックな職場のようである。
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