第8話ーーおっさん覚悟する

「かんぱーい」

「おめでとう!!」


 おっさんが目覚めてから3ヶ月経った。明日はガインミルカ夫妻の料理屋新規開店となった為に、本日はおっさんの部屋でのお祝いパーティーなのだ。

 アルの投資があるとはいえ、なぜ無一文だった2人がこうも早く開店へと漕ぎ着ける事が出来たかというと、転売である。

 

 世間では当初魔物の核以外の物が何かわからなかった。その為に低層で取れる核とスキル玉の区別がよくつかず、と呼んで捨てられる事も多かった。そこに目を付けたのが夫婦だ、ダンジョン前でダンボール紙に『ハズレ買います 80円』と書いて毎日座り込んだり、SNSを駆使して全国から買い集めたのだ。もちろん怪しんで売らない者もいたが、少しでも小遣いを稼ごう、スライムの核よりも高く売れるならっと結構な量が集まった。


 話は変わるがスキルとはおっさんが剣術や忍び足を得た事でわかるように、スキル玉を服用するだけが発生する理由では無い。そしてある条件を得ていないとスキル玉が出現しないものも存在する……それは錬金術や鍛治がそうだ。錬金術でポーション作成とか鍛治で伝説級の武器を作るっと憧れていたおっさんがある日アル達に「錬金術スキルってないの?」と聞いたところ、「元々そういう生業をしていないと落ちない」と答えが帰ってきたのだ。そして錬金術では薬は作れないそうだ、薬を作るのは薬師スキルであり錬金術は鉱物を鉱石から抽出したり合金を作り出すことしか出来ない。つまり薬剤師しか薬師スキル玉は落ちないし、鍛冶師しか鍛治スキル玉は落ちないという事だ、錬金術は鉄工所の作業員といったところだろうか。鑑定はといえば、人間普段生きていれば、初めて見る物に疑問を抱いたり知ろうとする事が多いために、比較的落ちやすいらしい。


 それを踏まえて話は戻る。

 宝石屋や質屋・リサイクルショップや各種研究機関等々の鑑定を生業としている者は、スキル玉を服用せずとも最初からスキルとして所持している者が多々いた。だが残念な事に彼らが鑑定して欲しいと持ち込まれる物の中にが当初含まれていなかった為に、誰もそれがスキル玉だと中々気付くことが出来なかったのだ。スキル玉はモンスター一体に対して必ずドロップする訳では無い、低層では特に確率が低いせいでもある。

 だが世界中に研究機関やお店は存在しており、そう時間がかかるわけでもなかった……情報はまず政府が掴み、役所の一つでもある探索者協会へと伝わった。まずは治安や災害、いざという時の為に警察官や自衛隊員に服用させる事に決めたのはいいのだが、そこで協会はケチった、今までハズレとして無料で引き取ったりしていたのを、有料買取とするのを嫌がっていたのだ。

 そして生まれたタイムラグ……


 その僅かな期間にガインミルカ夫妻の策はハマった、ハマりまくった。そしてスキル玉の情報が拡散された後に高値で販売しまくったという訳である。料理屋を開店できるほどの資金を荒稼ぎ……頭がいいと周りに褒められるのを見ておっさんが一人「転売ヤーが……」と歯軋りしていたが、「ケチをつけるにゃ」と一人娘に殴られたとかどうだとか……



 おっさんとアル、ローガスの3人組の探索は順調ではある。現在まで攻略しているのは15階層までで、溢れない程度に間引き感覚で毎日潜っている……なぜそんなに軽い感じなのか、それは今回は特に期限を聞いていない為である――追い詰められないと必死にならない、相変わらずダメな中年である。もし何らかの事故や病気死んだらどうなるのか?等とは一切考えてもいない、当たり前のように人生100までとか考えちゃっている……無駄に楽観的、それがおっさんである。


 その為に昼は3人でおっさんダンジョンに潜り、夜は普通ダンジョンに新木と2人で潜るを繰り返していた――もちろんアルとローガスはアイテムボックスの中である……代償は猫カフェとメイド・執事カフェだ。2人は完全にハマっている、ポイントカードなんてものまで作ってた……数枚目の。


 彼らは忘れていた、大事な問題を……そう、鑑定による種族バレである。

 なぜ忘れていたかといえば「鑑定スキルですが、熟練度が低い者は高い者を見る事が出来ません」というローガスの一言が大きかった、まだまだ余裕があると思ってしまったのだ。当時はまだスキル玉が何か判明していなかった事も災いしたのだ――出来る執事は過去の人となった、今や「マロンたん最高」とかメイドカフェスタッフの名前を時折ぶつぶつ言う、ちょっと出来る執事に成り下がっている。日本文化怖い……


 夫妻の料理屋オープンから数日後、銀行に売上専用の口座を開きに行った際に、「本人確認の為にステータスで名前確認させていただきます」と身分証提出と共に言われたという一幕を聞き思い出したのだ。


 焦った3人は再びダンジョン攻略に熱を持って取り掛かる事にしたのだが、おっさんはある不安を抱いていた。

 次の階層は16階、前回ダンジョン時での封印された記憶……魔のオークのお仲間事件が呼び出されてしまったのである。


「ねえ、ちょっと当分1人で潜らせてくれない?」

「何言ってるにゃ、3人での方が危険も少なく確実にゃ」

「そうでございます、以前のような無謀な事はしないと信じておりますが、堅実に挑むのがよろしいかと」


 当然そうなる。

 なぜそんな無謀な提案が通ると思ったのか……

 だがおっさんにとって、そこには引けない戦いがある――トラウマは根深い。

 何とか納得して貰おうと、揉めに揉めた……なぜかの理由を言わないせいもあって、許されない。そして結局3人で16階層へと向かう事となった――あっさり戦いに負けたおっさんは、オークがいない事を願うばかりである。


 悲愴の覚悟を持って至った16階層は、一見以前と変わらないような森林であったが、所々に物見櫓らしき物が建っていた。

 警戒しながら歩く事数分、どこからか笛の音のようなものが聴こえ、瞬く間に手前から奥へと順々に狼煙が上がっていく。どうやら他者の侵入を知らせるものであるらしい。


 1番最後に上がった煙を目指し3人は行く。

 すると前方から10個の反応が探知スキルにあった、速度から見てどうやら何かに乗って行動しているようだ。


 迎え撃つ事に決めた3人は武器を構え待つ。

 待つ事数分……現れたのはサラブレッド程の大きさの狼に跨り、足元から頭の先まで鋼鉄の鎧に身を包んだ<オークナイト Lv180 スキル:剣術(上級)・盾術(上級)・咆哮・威圧・指揮・言語理解>だった。

 狼から軽やかに降り立つと、その内の4匹は背中から大盾と取り出し構え、腰から剣を抜き放つ。1匹はその真ん中て囲まれるように立っている。


「ここはオークキングであるエルル様の領土である!何用か!?」


 大声で問い質してきた。


 その様子にアルとローガスは警戒心を一層強くした……領土という概念を持ち組織だっている事に。

 おっさんは1人ほっとしていた……もちろん、仲間呼ばわりされない事に。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る