第14話ーーおっさん挨拶をする

 1度は泣き止んだおっさんだったが、アルのこれまでを聞いてまた泣いた。

 2で泣き続けた。


 そしてテイムならば2人は離れる事など出来ない、死ぬまで一心同体であるとリスクを願いへと変え、契約をした――その際どちらがテイムをする方なのかされる方なのかで揉めたが、結局食事を提供するのがおっさんという事で、アルがテイムされる方と決まった。まあ、対等の仲間であるという事だ、一方的な関係ではなく。


 おっさんは驚きまくっていた、人をテイム出来るという事に。そこでアルから知らされたのは、アルのいた世界では夫婦の契りを交わす際にテイムをする者も多々いるという事だった。ただモンスターをテイムして戦う者の方が圧倒的に多いため、テイムというスキル名なのだろうという事だった。


「アルはどんなスキルとか持ってるの?ってか鑑定していい?」

「好きにするにゃ」

「ではお言葉に甘えて鑑定っ!」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 アルフォント・ショル・リイク・ガルア・ザルン・ジョシュアス・トラン・キュサック・コーガク・リュセット・シャルカン (18) 種族:ケットシー


 Lv43

 体力・・・141

 筋力・・・133

 魔力・・・253

 敏捷・・・226

 精神・・・185

 運・・・93


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 スキル・・・短剣術(中級)・光魔法(中級・上)・闇魔法(中級)・火魔法(中級・中)・魔力操作(中級)・解体術(上級)・跳躍(上級・中)・縮地(中級・上)・気配察知(上級・上)・生命探知(上級)・言語理解・罠感知(上級・中)・罠解除(全)・看破(中級)


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あれっ?ステータス全部見える」

「テイムした同士なら見えるにゃ、そして鑑定しなくても触れて"表示"って言えば見えるにゃ」

「えっ?そうなの?」

「そうにゃ、ケーキ食べ終わったら保のも見るにゃ」


 泣き止んでから落ち着くために食べだしたケーキをいたく気に入った模様のアル。おっさんの事などに構っている暇はないようだ――既に5つ目である。


 ここでふとおっさんはある事に気付いた。

 猫って食べちゃイケナイ物なかったっけ?と。そこで慌てて質問すると、「猫じゃないから問題なし」との事だった。


「このクリーミーな感触はまるで最高級の布の触り心地のようだにゃー!」


 どこの世界にも変な表現をする輩がいるようである。おっさんは心の中でアル麻呂と呼ぶ事にした――体型はおっさんの方が似ているだから……一心同体2人合わせて保麻呂である。


 まあ、麻呂だかハロだかどうかはどうでもいいとして、食べ終わったアルにおっさんのステータスを見てもらう事にした。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 大磯保(36)

 Lv72(28up)

 体力・・・212(83up)

 筋力・・・205(77up)

 魔力・・・438(193up)

 敏捷・・・147(59up)

 精神・・・177(42up)

 運・・・72(28up)


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 <スキル>・・・アイテムボックス・水魔法(全)・土魔法(初級・上)・火魔法(初級・上)・風魔法(初級・中)・剣術(中級)・棍棒術(初級・中)・槍術(初級)・弓術(初級)・投擲術(初級)・忍び足・環境適応・気配察知(初級・上)・生命探知(初級・上)・看破(初級・中)・鑑定(中級)・罠感知(初級)・罠解除(初級)・性豪・転移・指揮・鼓舞・テイム・気配遮断(初級)・隠形(初級)


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 比べてみるとよくわかるおっさんのステータスの低さだ。


「あれだにゃ、まるで貴族が寄生してレベル上げしたみたいにゃステータスにゃ。器用貧乏になってるにゃ、いくつかに的を絞って重点的に熟練度を上げなきゃダメにゃね」


 ボロくそである。

 だが言っている事に間違いはない。大体にして物語の勇者というのは、唯一の力を保持している以外はステータスは他より少し上なだけで、特化した者たちには勝てないのだ。そう、「器用貧乏で特に役立つ訳じゃないけど、魔王倒すのはアイツの力いるからパーティに入れるしかなくね」って感じなのだ。

 そして残念ながら職業システムなどないので、おっさんは勇者ですらないのだ――あくまでも自称勇者で自称ヒーローで自称救世主……切ない。


「とりあえず初心者装備を何とかするにゃ」


 と、いう事で武器防具屋にて売り物を泥棒……ではなく有難く頂き、飛竜の革鎧、ブーツ、ズボンを着ることとなった。薄いが丈夫で魔法耐性・衝撃耐性・斬撃耐性があるらしい。

 剣に関しては、おっさんが「魔剣魔剣」と騒ぎまくっていたが、「魔力操作がないと無理にゃ」と一蹴。ファンタジー定番のミスリルの〜とかも却下。


「……とりあえず全部の武器防具を保のスキルで仕舞っとくにゃ」

「いいの?」

「ここに置いておいても、いつかモンスターに襲われてにゃくにゃってしまうにゃ…………それに保がいつか使うかもにゃし」


 おっさんの落ち込み具合は半端ないが仕方がない為、アルが折れた模様――面倒くさそうな顔でため息吐いていた。


 その後雑貨屋でもアイテムやスキル玉などなどを回収。そして探索者協会に移動した。


「こ、これは入った途端に冒険者に絡まれ……あっ、人いないんだった……」


 何を期待しているのか……

 だいたいそれは転生転移ものだ。


 アルはというと、そんなおっさんに見向きもせずにそこら中を荒らしていた、荒らしまくっていた。受付の中の机の引き出しという引き出しをひっくり返し漁りたり、嬉々とした表情で金庫を開ける姿におっさんはドン引きしていた……


「あったにゃー!道具袋が5つもあったにゃ」


 戦利品を両手で掲げて、飛び上がって喜ぶアル。


「道具袋?何それ」

「これは、金貨10万枚を詰んでも買えにゃいものにゃ!王族とか高位貴族、もしくは名のある大探索者くらいしか手に入らにゃい物にゃ!!アルもこれで今日から大探索者にゃ!!アルが世界を救うにゃー!!」


 まるでデジャブ……

 おっさんがダンジョンに初めて入った頃の反応とほぼ同じである、ある意味似た者同士でいい事だろうか――いや、おっさんは引いていた、「アイテム1つで大探索者とかないわ〜」なんて思っていた。

 相変わらずのブーメラン芸でしかない……


「で、道具袋って何?」

「これはだにゃ、だいたい500kg〜1tほどの物が入るにゃ!でもでも……にゃんと重さはかわらないにゃ」

「おおっ!アイテム袋!そん中は時間の経過とかないの?」

「あるに決まってるにゃ……そんな仕組みあるわけな……チッ死ねばいいのにゃ」


 おっさんのアイテムボックススキルの説明を思い出したアルの目が死んだ。

 欲しくて憧れていた物が手に入ったと思ったら、それよりも勝るスキルを既に持っているおっさんが傍に居たとか……うん、やさぐれるのも仕方がない。


「とりあえず2つはアルが持つにゃ、あとは保のスキルの中で保管しておくにゃ」

「2つでいいの?5つあれば大大大大大探索者になれるんじゃない?」

「そんなわけないにゃ、アホなのかにゃ」


 どうやらアルは冷静になったようだ。1度浮かれたら浮かれっぱなしのおっさんとは違った。


 以後は見かけるアイテムなどを全て道具袋に入れていくアル。よく見ると、アイテムと金貨は別々の袋に収めているようだが、それになんの意味があるのかどうかはわからない。


「保、スキル玉全部鑑定するにゃ」

「全部?」

「そう、全部にゃ。鑑定したらそれが何か分かるようにメモを貼り付けとくにゃ。アルはちょっとその間に仕事してくるにゃ」


 そう言って命令すると、どこかに歩いて行ったアル。おっさんは数百個あるスキル玉を1人黙々と鑑定する事となった。




 アルは思い出深い料理屋にそっと入る―――もしかしたら2人がいつものように笑いながら迎えてくれる事を祈りながら。

 だがそこは変わらず誰もいない。

 元は毎日賑やかであった店内を目を擦りながら進む、そして厨房奥でしゃがみこむと、床の1部を外し道具袋の1つと紙片を放り込んで、床を元に戻した。

「お母さんの大好きな金貨にゃ……これはアルからのプレゼントにゃよ。もし戻って来れたら驚くといいにゃ」

 そっと呟くと店外へと出て、扉窓の全てを木で打ち付ける――まるで宝箱を隠すかのように……思い出をも閉じ込めるように……



「終わったかにゃ?」

「あっ、うん終わったけど……なんかトンカン音がしてたけどなんかあった?」

「何もないにゃ……何も……それよりもスキル玉見せるにゃよ」

「そっか……はい」


 戻ってきたアルの両目の端にほのかに光るものを見たおっさんは察し、スルーした。


「うーん、大していいもんにゃかったにゃね。取り敢えず保は光魔法中級と魔力操作初級を取り込むにゃ」

「えっ?闇魔法とか双剣術とかも欲しい」

「必要ないにゃ、光魔法は回復もできるし、魔力操作は保が好きな魔剣に必要だからだにゃ」

「おおっ!魔剣!俺は魔剣使いになる!」


 闇魔法とか双剣術という如何にも厨二的なスキルに興味津々だったが、即座に却下され凹むおっさん。だが、次の言葉で一気に復活して狂喜した――相変わらず単純である。アルが聞こえるか聞こえないような声で「チョロい」と呟いていたのは気のせいだろう。


「じゃあ早速22階に行くにゃ、そこで練習にゃ」

「ちょっとトイレしてくるから階段まで先に行ってて」

「ヤレヤレなのにゃ……先に行くから早くしてくるにゃ」


 年齢的にはアルの倍以上だというのに、どちらが大人なのか……


 てくてくと下層への階段へ向かい歩いて行くアルの姿を見送ったおっさんは、料理店へと向かい扉の前で頭を下げる。


「お父さんお母さん、アルは俺がちゃんと守りますので死なせないので安心してください」


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