閑話ーーアル巻き込まれる

「おーいアルー!お前にお客さんだぞ〜」


 ガインに呼ばれて階段を降りる。


「結構大勢だったからふっかけても大丈夫よ、きっと」


 ガインの奥さんである料理人のミルカがふくよかな体を寄せて、こそりと囁いてきたにゃ。ミルカの作る料理はとっても美味しいけど、少々がめついのが玉に瑕にゃ。


 元々宿屋に住みながら30階層までの案内と戦闘補助でお金を稼いでた時に知り合ったのにゃ。ガインとミルカ2人の人族を案内した時に、野営で出される食事のにゃんて美味いこと美味いこと。このダンジョンで産まれて育ってきて、ここまで美味しいものを食べたのは初めてだったにゃ。話を聞いたら、料理屋をやる為にいい場所といい食材を探しているって事だったにゃ。アルの好きな事は美味しいものを沢山食べるためにゃったし、話してみると気があった。にゃんども案内しているうちに、どうやらこのダンジョンが気に入ったらしく、ここで料理屋をやるって言い出した時は嬉しかったにゃ、これからずっと美味しいものが食べれるって。

 そこで提案されたのが一緒に住むって事だったにゃ。


 アルが10歳の時に、パパとママは53階層最前線攻略班と共に探索中に命を落とした。家に残されたのは僅かなお金と、教えこまれた探索の仕方だけ。途方に暮れている暇もなく、家を追い出されてそれからは宿暮らしだったにゃ。

 2人には子供はいにゃい、旅の途中で熱病に罹って死んだそうにゃ。


 そこで「うちの子供となって一緒に暮らさないかい」と言われたにゃ。パパとママの思い出がある家を買い取って改装してくれて、種族にゃんて関係にゃいって抱きしめてくれたにゃ。パパとママもグルメで、夢は「3人で美味しいものを食べ尽くす」っていつも言ってたし……世界一の料理人の子供になるっていうのもいいにゃって思ったにゃ。


 一緒に住むにあたって約束した事は3つ。

 まずは子供なんだから家賃はいらないって事。勝手に仕事を引き受けないって事。死なないって事にゃ。

 最初は料理屋のお手伝いすればいいって言われたけど、パパとママが教えてくれたのをなしに出来ないし、3年間だけどやってきた誇りもあったから案内人を続ける事にしたにゃ。


 探索者協会から紹介状を持ってきたお客さんの依頼内容を聞いて、アルに通すかどうかを見極めるのはガインにゃ。長年の勘で人を見極めるのにゃ……そのおかげで囮にされたり変な事されたりって事は今までに1度もにゃいにゃ。最終判断はもちろんアルにあるにゃ、たまにアルの魅力にメロメロになった変態さんもくるから要注意なのにゃ。


 そして5年、一緒に色んな物を食べてきたにゃ。ここは外から貴族っていう人達がいっぱいくるから、色んな食材が集まるし、ダンジョンにいるモンスターもから最高にゃ。



「23階層までの案内を頼みたい。目的はジャイアントフロッグの目玉だが、急いでいる為に最短で向かいたいので日帰りもしくは1泊2日で願いたい。その際の食事野営設備などこちらで全て持つ、もとろん礼金も弾む」


 ジャイアントフロッグは23階層の真ん中の湿地帯に住む大きなカエルにゃ。毒も何も無くただでかいだけにゃけど、皮が厚くて中々攻撃が通りにくいモンスター。脚の肉は美味しいけど、目玉にゃんてにゃんで欲しいのかわかんにゃいけど、そういうのは聞くのはご法度にゃから気にしにゃい。


 23階層への往復だと、相場は帝国金貨4枚がいいとこにゃけど……

 リーダーを含め前衛が5人、魔法特化っぽい後衛が3人、弓持ちが3人、ポーターが3人、あとなんか偉そうなのが1人……中々の大所帯にゃ。これは多分貴族とそれに雇われた探索者にゃね。ガインとミルカに手数料と食費として半分取られるし、小遣いも欲しいにゃし……


「帝国金貨6枚にゃ、それでいいにゃら引き受けるにゃ」

「6枚だそうですが……わかりました……それで頼む」


 やっぱり当たってたにゃ、あの偉そうなのに確認とってたにゃ。


「前金として半分先払いにゃ」

「わかった、これで頼む。すぐ用意して欲しい」


 貰った金貨3枚をガインに預けて、10分後出掛ける事になったにゃ。

「気を付けてね、行ってらっしゃい」

 いつも通り、2人が入口まで来て手を振ってくれたにゃ……

 あれが最後の言葉になるなんて思いもしにゃかったにゃ……



 22階層はグラスジャイアントアントで、数が多くて硬いから面倒にゃんだけど、アルは凄腕案内人にゃから、どこに巣があるか全部把握してるから全て避けて戦闘なしで抜けたにゃ。探索者達の驚く顔が面白かったにゃ。


 目当ての23階層、ジャイアントフロッグ生息地に来た。人数いるだけあって危にゃくにゃい戦い方をしてたにゃ、にゃけど……弱く脆い敵だと勘違いしたのか、貴族がふらふらと歩きだして少し遠くにいるジャイアントフロッグに魔法を放ったにゃ。一気に跳躍して貴族に襲いかかるジャイアントフロッグ……咄嗟にアルは貴族に追い付いて、ポーターがいる方に蹴り飛ばしたにゃ、大事なお客様が怪我したら問題にゃし……


 その結果、アルは舌に巻かれて飲み込まれたのにゃ……


 どんな生物も攻撃には強いけど、中からの攻撃には弱いってパパとママに教わってたから、少し手間取ったけどにゃんとか外に出る事が出来たにゃ。

 だけどそこにはもう誰もいにゃかった……


 ポーターの置いていた荷物はそのままある事から、全滅したのか……でもあんなにいたのに少々手間取ったとはいえ僅かな時間に全滅にゃんて考えられない。じゃあ逃げた?でもなんで荷物そのままなのかも……


 考えてもわからにゃい事はどうしようもないにゃ、ポーターの荷物から金目の物を回収して帰るにゃ。



 夕食に間に合うように急いで帰ってきた街は、とても静かだった。

 まるで誰1人いにゃいかのように……


 いつも道に溢れかえるようにいる、探索者も商人も住人も誰もいにゃい。

 おかしいにゃ、おかしいにゃ……

 不安を押し殺して、料理屋へと辿り着いた……誰もいにゃかったにゃ。


 何かあって街の住人みんにゃ逃げ出したのかにゃ?

 でも全ての荷物や金貨や銀貨全てがそのままにゃ……

 ミルカがいた厨房の竈の火も着いたままだし、ガインがミルカに隠れて飲んでいる酒瓶が以外は出掛ける時とにゃにも変わらないにゃ。それにまるでついさっきまで人がいたかのように、料理からは湯気が出ているにゃ。


 これはみんなでアルを驚かせるための隠れんぼかにゃ?

 ドッキリってやつにゃね!

 探してやるにゃ!!



 どれだけ探しても、どこにもいにゃい……

 もう20日も探しているのに、どこにもいにゃい。


 八百屋の野菜、肉屋の肉、ミルカの作った料理が全てが腐っても、誰も帰ってこにゃいし、見つからにゃい……


 アルは捨てられたのかにゃ?


 でも探索者協会の金庫の中も、鍛冶屋の武器防具も、全て残ってる。

 にゃによりも、あのがめついミルカが金貨をそのまま残していくにゃんておかしいにゃ……

 きっとにゃにかあったに違いにゃいにゃ……



 あれから3ヶ月経ったけど、まだ1人にゃ……


 とバカな話をしたいにゃ……

 の美味しい料理が食べたいにゃ……

 2人に会いたいにゃ……

 依頼料全部渡すから無事帰って来て欲しいにゃ……



 あれから更に2ヶ月経ったにゃ。

 もうお母さんが地下に作っていた絶品干し肉やハムも無くにゃったにゃ。



 その辺に生えてる草を毟って食べ始めてから1ヶ月……もう限界にゃ……

 美味しいものが食べたいにゃ……

 もう1人は嫌にゃ……誰か来て欲しいにゃ……

 パパ、ママ、お父さん、お母さん……



 生命探知に半年ぶりに街中に人の反応があるにゃ!!

 誰が帰ってきたにゃ!?


 いたのは……あれはオークかにゃ?

 うーん、生命探知からも多分人間っぽいにゃ……話しかけるにゃ!!


「久しぶりのお客様だにゃっ!?」

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