40 残雨

 雨はまるで全てを洗い流すかのように降っていた。

 左手の煙草の火だけが、それを逃れていた。私は時機に来るだろう梅雨と、曇天の低気圧に伴う刺すような偏頭痛と、雨粒に光る白い紫陽花と…そして未だ隣にある笑顔を想った。

 雨はものの二十分で止んだ。

 煙草は三本目に火を点けたばかりだった。雨の後には濡れた土だけが音もせずに香っていた。

 私は私の、黒い愛車をそれとなく眺めた。

 その長いボンネットにはありありと、雨の足跡が、私を忘れるなと言いたげに斑模様を残していた。…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る