39 肖像画
「現世の雑多な苦悩のうち、娯楽さえ全て死ぬまでの暇つぶしと嘯きながら、それでも貴様が今、息をし続ける理由は」
「私というちっぽけでどうしようもない一つの生き物が、生き、考え、死んだ。それを遺す。ただ、そのため」
「どうやって遺す?」
「書く」
「何を?」
「私の全てを」
「それは思想全てをか?」
「否。思想も現実も、希望も絶望も、快楽も罪も、現も幻も、美も醜も、この身で味わった全て」
「それは誰かのためか?」
「否。私の生、私の死、私の創作、私の活動、全ては私のために」
「貴様は自分をどう考える?」
「冷酷な観察者、永遠の部外者、自己と分離した研究者、研究材料、実験体であり絶え間ないその結果、肉、薄情な自己中心的パーソナリティの塊、社会不適合者、採掘機、利己主義者、存在の絶え間ない不安定より成る過去の記憶媒体…偶然の産み出した神経の集合物」
「それを悔やむか?」
「否。いつ死のうと、私は私のまま死ぬ故」
「変化を望むか?」
「私が私であるために必要とあらば」
「他者とは?」
「遍く思索、研究、観察、実験の材料であり対象、私の心象世界の鏡像、そして何より、私の身に余る自然より来る恩恵」
「自己卑下は下賤也」
「これは自己卑下にあらず。ただ観察結果からの分析故」
「最後に己の理想を答えよ」
「ただの人間として生きるべき時を生き、ただの人間として死ぬるべき時に死ぬ」…
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