26 命と言葉
『人生を可視化するなら命は一冊の本に収まるか』
これはあるアーティストが曲中に込めた一つの問いかけである。
文学を嗜む以上、またものを考える人である以上、この問いかけに心を奪われないものはいなかろう。そこに無数の答えがあってよい。されど、我々は、この問いかけに、自分なりの答えを見出さずにはいられない。
私の答えは、『収まる』である。
それは、決して命や人生がそれほどに軽いという意味ではない。むしろ私は、その中に無限の可能性を認めている。そして同時に、言葉の中にも、無限とは言えぬものの味わい切れぬほどの深みがあると信じてやまない。
人の生を、私なりの簡略化に基づけば、『生き、死ぬ』とその両極を表した言葉に行き着く。本一冊どころか、短歌にすら容易に収まると言えよう。
されど、ここで冷笑を湛えた盲目に陥ってはならない。それはものを考える人間の死である。そしてそれは、私にとって肉体の死よりも余程絶望的な死である。
重要なのは、この短い言葉の中に、我々の全生命をもってしても味わいつくせぬほど芳醇で、甘く、そして苦く、世界のあらゆる香水よりも香気に富む…語りつくせぬ妙味が含まれているというところにある。
私はここに文学の文学たる所以をみる。言葉の言葉たる所以をみる。決して人生の、短さや薄っぺらさなどを見出しはしない。
文学を文学足らしめる以上、そこに含まれる一語一語は、その表象的意味合いの範疇を、完全に超越せねばならない。一語の中に、読む者が、書く者が、それ以上の価値を見出すことができなければならない。そうでなければ、言葉などただの直線と曲線で構成されたデザインの一つに過ぎない。また、あらゆる場面で人の用いる言葉そのものも、時に文学的であらねばならない。それは生きる上でのあらゆる楽しみを産み出す美学であり、同時にあらゆる悪夢を産み出す大罪である。…
されど、そうでなければ、我々はあらゆる感性の上での至上の戯れも、悪夢の中での地獄の苦しみも、味わうことはできないのである。
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