16 希望と絶望の先へ
我々の多くは希望という名の肉体と結婚しようと躍起になっている。
しかし、その多くは、『希望』がその美しく官能的な肉体のうちに、絶望という精神を孕んでいることを知らない。
だが、そのようなことはどうでもいいことだ。
ただここで重要なのは、それを知った後のことである。
希望に縋り、その甘美な肉体を思う存分味わい、まぐわい、溺れて生きていくこともできよう。だが下劣な言葉を使えば…それは感情を持たぬ肉欲の性交となんら変わるところはない。
絶望に耽溺し、『希望』の甘美な肉体を徹底して拒絶し、自ずから滅び行くこともできよう。それは多くの場合悲劇的だ。だが、ある種の美的感覚の発露でもある。美的とはいえ、究極的には絶望が死を意味することは、無論何ら変わりはない。耽溺の行先は、苦悩と死の絶壁にある。いかに悲劇的美学であろうと、行き着く場所は単なる行き倒れと変わりはない。飢え死にと美学に元ずく自害も、共に無残な屍しかこの世には残さぬという明快な事実を、我々の精神はその熱っぽさを持って忘れさることが、ままある。
最後に、もう一つその先、を示すことができよう。
すなわち、希望と絶望をただ知り、それを路傍の人と眺めながら生きていくことである。それには明晰な頭脳と、徹底した冷静さ、そして不断の決意が必要になることは、言うまでもない。しかし、智慧を貴ぶのならば、醜い肉体の内に秘める理性を信奉するのならば、『希望』と『絶望』を知った後の生き方としては、他のものよりはいくらかマシな生き方とも言えるだろう。
私が目指すのは、最後の一つである。それを実際に成し得るかは、いるかどうかも知れぬ神のみぞ知る、と言っておけばそれで事足りよう。
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