11 グノーシス主義者の憂鬱

das Ich「ああ、私はいつだって白か黒かを望んでいる。だが、私はいつも灰色だ」

Über-Ich「白を選びたまえ」

Es「黒に決まっておろう」

das Ich「今夜も、貴様等の言い分を聞かせてみろ」


Über-Ich「白こそ人が目指すべきものだ。智慧と理性によって己が本質を探究し、神へ近づこうと生きることこそ人が人たる所以也。肉体の本能に塗れ、汚れた黒を選ぶなど、なんと愚かな行為であろう。それは君自身も知っているはずだ」


Es「黒だ。黒こそ人が染まるべきものだ。肉体と魂が異なると言うお前ならわかるだろう。肉体の穢れは魂の穢れにはならない。肉体の本能に従え。それこそ種の繁栄につながり、自然の摂理に背かぬというものだ。折角肉体の器に産まれておきながら、それを憎むとは、白を選ぶなど馬鹿げた行為だ。それに、お前も快楽は好きだろう?」


das Ich「ああ、そうだ。貴様等はいつもその調子で私を苦しめる。私は白にも黒にもなり切れず、こうして灰色のまま苦悩を繰り返している。この苦悩も幾度目か。何度美しい夜を犠牲にしたことだろう。自然はこうも超然と、完全に成り立っているというに、何故私はこれほど不完全に矛盾した、地獄を抱えなければならないのだ。生まれた罪か?これが原罪と呼ばれるものの因果か?ああ、今日も眠れそうにない。私の肉体は本能の開放を常に求め続けている。私の魂は理性の統治を常に主張し続けている。私はその狭間で、何者でもない己自身に永劫苦しめられ続けるのだ…」




※注釈 演者は皆フロイトより生まれり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る