10 概念という悪癖

 私は物事を、概念として捉える悪癖を持っていた。それは私があまりにも書物から感覚を養い過ぎたためであったのかもしれないし、敬愛するフロイトやユングの心理学からの影響であるのかもしれない。

 

 私にとって煙草は、『死、自殺、退廃、手放せない物、依存、憧憬』である。

 私にとって黒色は、『私自身、本能を覆い隠す壁、夜、還り付くもの』である。


 私にとって全ての表象は、いわば自然と世界によって描かれた緻密で、美しくも残酷で、途方もなく味わい深い抽象画である。超自我の検閲を受けた本能が、夢として意識化されるように、私にとっての現実は全てが何物かの象徴である。

 そして最初に書いたように、あえて私はこれに『悪癖』と後付をしよう。

 それは、私の人生が、あまりにもこの抽象画によって徹底的に支配されているためである。

 私は、既に表象を『そのもの』として捉える術を失ってしまった。

 それは紛れもなく、絶望的な、悲劇である。

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