5 私

 私は読書家でありたかった。

 しかし、私の集中力は一時間も満足に保てた試しがなかった。


 私は誠実でありたかった。

 しかし、私は彼女ではなく女友達に肉欲を覚えた。


 私は良い人間でありたかった。

 しかし、私のそれは単なる仮面でしかなかった。


 私は無害でありたかった。

 しかし、私の根底は加虐心と危険な欲動を孕んでいた。


 私は何者も殺生をしない人間でありたかった。

 しかし、私のそれは消極的な怠惰と傍観主義でしかなかった。


 私は私でありたかった。

 しかし、私が私であるには、あまりにも私は私に満たな過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る