4 記憶

 記憶とは、儚いものである。ああ、なんと使い古された、黴臭い言葉であろう。

 しかし、それは薄れるからではない。記憶が保持するものは、あまりにも些細な物事ばかりだからだ。

 試しに数年前の記念日を思い返してもみたまえ。

 君はきっと、その日食べたケーキのや大切な人から貰ったお祝いの言葉、それを発した人間の表情なんかよりも、当時吸っていた煙草の銘柄や、気にも留めなかったテレビCMや、玄関先で死んでいた蟻のことや、缶コーヒーを買った自販機でつり銭が取り出しにくかったことでも思い返すだろう。

 

 やはり、記憶とは儚いものである。

 だがそれは、日常の些細な幸福と地獄がいかに我々を徹底的に支配しているか、残酷にも美しく、過去の残骸の中でその存在を示し続けている。

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