3 好悪

 私はいつからか、物事を善悪ではなく好悪で量るようになった。それは私が、いうまでもなく悪であるからかもしれなかった。同時に、私にとっての外界が『悪』であることからかもしれなかった。私は善人を羨み、そして憎んだ。私は悪人を尊敬し、そして軽蔑した。私の好悪は、私の価値観の天秤の、最も重要な目盛だった。

 私にとっては、『信念』を持つ殺人鬼よりも、浮薄な人々の犯す些細な不快の方が、よほど悪であった。私はたしかに、その観点からいえば、殺人鬼になりかねない人物であった。私はそれを知り、危険視し、そして何よりも私はその価値観の天秤を、生涯をかけて愛で続けていた。

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