第2話 俺たちのパーフェクトプラン

未知の宇宙言語で行われている全くもって理解できない授業を左耳から右耳に流しながら思考を巡らせる。

隕石の衝撃から身を守る方法……そうだ、核シェルターだ!!

日本と周辺諸国を滅ぼす程の隕石に対して核シェルターが耐えられるのかどうかはわからないが、核爆弾でも大丈夫なのだからきっと大丈夫だろう。


さて、核シェルターに誰をいれようか。

俺とタケシと委員長と……後、家族もみんな連れて行くべきだよな。

親父もお袋も死なせたくない。

それとクラスのみんなも救わなくちゃな。


いや、まてよ。クラスのみんなの家族も連れていった方がいいよな。

でも、他のクラスは……やっぱり連れていくか。

そうだ、学校中のみんなとその家族を核シェルターに連れて行けばいいんだ。


なんだ、これで解決じゃないか。俺って頭いいな。


隕石が落ちて地球は滅んでも俺たちは生き残る。

「君のおかげで助かったよ、感謝の言葉も無い」

「君が隕石の落下を知らせてくれなければ僕たちも死んでしまう所だった」

「素敵、抱いて……」

「そうだ!彼を胴上げしよう!!」


万歳!!万歳!!


……そんな妄想をして、学園一の美少女が彼氏を捨てて俺のカノジョになった辺りで放課後が訪れた。



◇  ◇



「それでその核シェルターは何処にあるの?」


放課後、完璧だと思っていた俺のプランをタケシと委員長に話したら委員長が反論した。


「え?そりゃあその……何処かにあるでしょ」


「そうだよ委員長。きっと政府の要人や金持ち専用のがあるって」


俺の案に感心していたタケシがフォローをいれる。


「群馬に政府の要人や金持ち専用のシェルターがあるわけないでしょ!!それに学校全員とその家族……大体2000人くらいが入れるはずがない」


そうだ、何という事だ。

2000人が入れる核シェルターを探さなきゃいけないじゃないか。


「それでタケシは何か考えたのか?」


とりあえず、2000人収納可能な核シェルターを探す前にみんなの意見を聞こう。

もっと効率のいい方法があるかもしれない。


「おう、すげえいいアイデアが2つも浮かんだんだ」


2つも考えていたのか……こういう時のタケシは本当に役に立つ。


「まず一つ目は日本中全員にこの事実を知らせるんだ。そしてみんなで海外に脱出する」


……そうか、みんなに今晩隕石が降ってくる事を知らせればみんなで脱出出来る。

俺は学校中だけ助かればいいなんて狭い考えだった事を恥じた。

その間、タケシは日本という国を救おうと考えていたんだ。


「どうやって知らせるの?それに後、10時間も無いよ」


「それは……その……」


タケシが言葉に詰まる。今度は俺がタケシを助けてやる番だ。


「委員長、委員長は知らないと思うが俺のツイッターには1000人のフォロワーがいる。

俺が今晩隕石が落ちる事をツイートすれば、それは1000人に広がり、彼らがまた広げる。

すると瞬く間に日本中、いや、全世界が今晩隕石が落ちてくる事を知る事が出来るのだ」


「すげえよ!!マジすげぇ!!」


タケシが感心して声を挙げる。


「ふーん、じゃあツイートしたら?」


「いいのかい?俺がツイートしたら次第に世界中がパニックになるぜ?」


世界が平穏で居られるのも今だけだ。


「やればいいじゃない。どっちにしてももう時間が無いんでしょ」


そうだったな、躊躇している暇は無い。

俺はツイッターで≪今晩隕石が日本を襲う、死にたくなければすぐに逃げろ≫と一文を打つ。


……俺がこれを送信すれば平穏な日々が終わる……そんな考えが頭を過ぎる。

だが、それでみんなが助かるなら……俺は送信のボタンを押した。


去らば、俺たちの平和な日常――。


「それで、タケシ君のもう一つのアイデアとやらを聞こうかしら」


俺が躊躇いながら覚悟を決めてツイートしたのを見た委員長がタケシにもう一つのアイデアを尋ねる。


「これはさっきよりも確実では無い方法だけど、成功すれば日本どころか周辺諸国全てを救う事が出来る」


タケシ、何て奴だ。

お前は日本どころか地球を救うつもりでいたのか……


「お前ら、アルマゲドンって映画知っているか?」


「ハゲのおっさんが斜め向こうみているポスターしか知らない」


「知らないのかよ。巨大隕石が迫ってくる中戦う男達の映画だ」


なんだよ、それ、俺たちと一緒じゃねーか。

俺たちハゲのおっさんだったのか。


「その方法というのが何と!!スペースシャトルで宇宙に行って、巨大隕石に核爆弾を埋めて隕石を破壊するんだ!!」


成程、隕石を壊す!!その発想は無かった!!タケシ、すげーよ。

お前最高だよ!!


「それで、その隕石はどこにあるの?」


委員長はすかさず横槍をいれる。


「そりゃあ宇宙にあるに決まっているじゃないか」


「宇宙の何処?まずどの隕石の事かがわからない。次にスペースシャトルと核爆弾は何処から持ってくるの?」


「NASAが全面協力さ!!」


「スペースシャトルってね、打ち上げるのに数か月単位で準備がいるものなの。今からじゃ手遅れでしょ」


何てことだ、全ては遅すぎたのだ……


「それで、さっきのツイートは世界中にばら撒かれたの?」


そうだった。俺はみんなの平穏な日常を壊したのだった。

今頃10万リツイートくらいされて、有名人の仲間入りしてしまっているかもしれない。


「そうだな……さっきのツイートのリツイート数は……ゼロ」


何でだ?何で誰も拡散しないんだ?

パニックをおこしてリツイートする所じゃないのか?


「誰もね、そんな話信じないのよ。きっと信じているのは貴方たち二人だけ」


そんなはずないだろ!!だって日本滅ぶんだぜ。


「そ、それで委員長のアイデアは?」


「言わなかった?別に信じてもいないから考えてもしないで真面目に授業を聞いていたの」


そ、そんな……この世界で予言者さんの事を信じているのは俺とタケシだけだったのか……

俺たちは二人だけの孤独な戦士だ。



◇  ◇


その時、俺たち3人だけだった教室に一人の女の子が入ってきた。


「委員長、書庫の鍵と日誌……先生いなくて……」


「今日、如月さんが日直だったのね。ありがとう。預かっておくわ」


如月さん……(何て読むのかは知らない)

目が見えないくらいに長い前髪をした彼女は誰とも話す事は無く、教室でいつも謎の黒い本を読んでいたり、ノートに謎の文字を書いている、クラスの中でも浮いた女の子だ。

当然自分も殆ど話した事は無い。


「如月さん!!今日、隕石が群馬に落ちて日本が滅ぶんだ!!早く避難したほうがいい!!」


タケシが突如、如月さんに叫ぶ。

そうだ、タケシはみんなを救おうとしているのだった。

それは如月さんも例外ではない。


「……!!何処でそれを知ったの?」


如月さんが興味を持ったのか、俺たちに近づく。

俺は予言者さんのツイートを彼女に見せる。


「破滅の予言者……電子の海にその身を隠していたのか……」


如月さんは訳のわからない言葉を発した。

本当に彼女はよくわからない。


「だから如月さんも早く日本から逃げるべきだ!!それが一番手っ取り早くて確実な助かる方法なんだ!!」


タケシは如月さんに日本脱出を促した。

一生懸命考えたアルマゲドン計画を捨てるとは……やはり、タケシは只者ではない。


「そうだ、もっとみんなにも広めよう。さっきのツイートを俺がリツイートすればもうちょっとはみんなに広まるはずだ!!」


タケシは自分のスマホを取り出し、ツイッターを開く。

だが、何も読み込まれない。


「あれ?おかしい……電波が無くなっている!?」


そんなはずが……俺もスマホをみたら電波を示すアンテナが圏外になっていた。


「え?あれ?私も?」


委員長も圏外。


「圏外……」


如月さんも圏外。


これは俺とタケシだけじゃなくて全員が圏外になってしまったのか……

俺はふと脳裏に一つの可能性が浮かんだ。


「な、なあ、これってもしかして隕石が近づいてきている影響とかじゃ……」


「バカ、やめてよ……」


委員長がはっきりと返せなくなっている。


「だ、駄目だ、スマホ使えないんじゃみんなに隕石の事を知らせる事も出来ない……」


タケシが絶望して膝をついている間、如月さんは日直の仕事である黒板消しを清掃機にかけていた。

そうだ、スマホが使えないなら核シェルターの場所を調べる事も出来ない。


「わ、私、先に帰るね」


委員長が帰ろうとする。


「何処行くんだよ委員長!!一緒に海外に逃げよう!!」


「行かないわよ!!行けるわけないでしょ!!友達や家族捨てて一人で逃げれる訳ないじゃない!!」


委員長は取り乱して叫んだ。

スマートフォンが使えなくなったという不測の事態が彼女の不安を搔き立ているのだろう。

一方の如月さんは黒板の縁を丁寧に雑巾でふき取っていた。


「ごめん、委員長。俺も一緒に帰っていいかな?」


「二人で海外でも何処でも逃げればいいじゃない」


「俺、もし隕石が落ちてくるとして委員長が死ぬというのなら俺も一緒に死にたい。

俺、それくらい委員長の事が好きで委員長がいない世界になるのは死ぬより辛いんだ」


委員長は黙ってタケシの事を見つめる。

一方の如月さんは黒板に明日の日直の名前を書いていた。


「うん、いいよ。一緒に帰ろう。私も少し怖くなってきたんだ」

委員長が弱々しい声で返した。


「タケシ、お前……」


「ごめん、俺、そういうわけでお前と一緒に逃げられそうにないや。お前だけでも生き延びてくれ」


タケシは俺に手を差し出し握手を求める。


「ああ、委員長の事大切にしてやれよ」


俺はタケシの手を握る。

タケシは満面の笑みを俺に向けた。


「じゃあな、今まで楽しかったぜ!!」


そう言って、タケシと委員長は教室から消えて行った。


こうして教室には俺だけが残され……いや、帰り支度をしている如月さんがいた。

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やべー 峰岸ペン @negi_pen

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