やべー

峰岸ペン

第1話 やべー、日本が滅ぶ

やべー、やべー、超やべー。

俺はこの空前絶後のやばい情報をタケシに知られるべく高校の教室に入った。


「タケシ、やべーって!!すげーやばいんだって!!超やべーって!!」

「な、この髪のメッシュやべーくらいカッコいいだろ」


確かにタケシの前髪には昨日には無かった紫のメッシュが入っていて、それもやべーけれど、今はそれどころじゃなかったのだ。


「違うって、やべーんだって!!地球がやべー!!」

「は?どうしたんだよ急に、俺のメッシュで地球がやばいのかよ!!」

「いや、そうじゃねって、見ろよこれ」


俺はタケシにスマホを見せる。画面には俺が今朝見て青ざめたツイッターの一文が映っていた。



**********************************

今宵、群馬の地に闇の力で引き寄せられた隕石が落ちるだろう。

日本と周辺諸国一帯は光と熱に覆われ消える。


予言者より

**********************************


「な、やべーだろ!!日本が今晩消えるんだよ!!」


タケシは平然と笑った。


「何言ってるんだよ、それに予言者って何だよ。大体本当にそんな事が起きるならテレビでやっているってば」


タケシは何を言っているんだ。


「この予言者さんはな!!あの震災やあの災害も全部予言していたんだよ!!それに災害の前にマスコミが放送するわけないじゃないか」


そうだ、テレビは何にも教えてくれない。

真実を知る事が出来るのはネットからだけなのだ。


「ま、まじかよ。あの震災やあの災害も予言していたって」


「俺だって信じたくないさ、でも実際にこの前の大雨も1週間前に予言していたんだ」


「やべー!!この予言者やべーな!!」

タケシはようやく信じだした。

でも俺が信じて欲しいのはそこじゃない。


「確かに予言者さんはやべーけれど、俺がやべーって言っているのはそこじゃないんだって!!」


「じゃあ何だよ」


「今晩日本が滅びるんだって!!」


「うわ!!本当だ!!それに群馬って俺たちのいる場所じゃねーか!!それはやべーな!!」


ようやくタケシがこの事態を理解してくれた。

全くこいつは髪の毛はいいけれど頭は悪くて困る。


「どうする!?日本から逃げるか!?」


「逃げるっつったって何処に逃げるんだよ、マレーシアか?」


「何でマレーシアなんだよ!!」


「行ってみたかったんだよ、マレーシア」


「いや、マレーシア結構近いだろ、周辺諸国も一緒に滅ぶんだぜ!!」


「マジで!?俺もうマレーシア行けねーの!?」


やべー、タケシの頭超やべー。

でもどうすればいいか俺にだってわからない。


「とと、とにかく今日は授業なんて受けている場合じゃないな」


タケシが突然頭のいい事を言い出した。

確かに国外に逃げるにしても、他の手段を考えるにしても授業を受けている場合では無いのだ。

こいつ、実は天才なんじゃないか?


「よし、そうだな、授業なんて受けている場合じゃない。今日はもう帰ろう」


自らの生存を求めて教室から出て行こうとしていた俺たちに三つ編みの女の子が声をかける。


「ちょっと、あんた達何処に行くの?」


げっ、委員長だ。

委員長は本名を佐藤明恵というんだが、佐藤もアキエもこのクラスにはいるのでみんなから委員長と呼ばれている。

実際、彼女は1年の時から2年間クラスの委員長で居続けているのでみんなそう呼ぶことに疑問を抱いておらず、たまに担任ではない先生が「佐藤さん」と呼ぶとそれが間違っているんじゃないかと思ってしまうくらいに彼女は委員長なのだ。


「委員長、実はかくかくしかじかで日本が滅びるので授業受けている場合じゃないので帰ります」


「いやいやいや、まず隕石が落ちてくるとネットに書いているから帰るなんて先生に報告出来ないでしょ」


もし、早退者が出た場合、委員長には先生に報告する義務がある。

だから俺たちは学校をサボる際には委員長のお世話になる事が多いのだ。


「それにね、仮に海外に逃げたとしてもし日本が滅びなかったら貴方たちそこでどうするの?」


「それはその時考えればいい、今は一刻を争うんだ」


「滅ぶとしたらみんなを見捨てて逃げるの?」


うぐっ、そうだ、俺たちは自分の事ばかり考えていたが、隕石が落ちる事を知っている俺たちが逃げてしまえばこのクラスのみんなも家族もみんな死んでしまう。

俺たちはなんて自分勝手な考えをしていたのだろう。


「委員長!!俺、委員長の事が好きだ!!一緒に逃げてくれ!!」


そんな俺の考えを他所にタケシが突然、委員長に告り出した。


「タケシ、お前何、委員長に告っているんだよ、それに委員長だけ連れて行っても意味ないだろ」


「だって、俺ずっとずっと委員長の事が好きで、今晩地球が滅ぶとしたら今しか言うタイミング無いじゃん。

それに俺、バカだからきっとみんなを助ける方法なんて浮かばないんだ。

だから、俺が助けたい人を連れて行くしか出来ないんだ」


「いや、言っている事は御尤もなんだけどさ……」


「あの……その……」


俺がタケシを嗜めようとした所に委員長が割って入る。


「き、気持ちは嬉しいんだけれどもさ、私、誰かにこうやって告白される初めてでどうしたらいいかわからなくて……えっと……その……」


駄目だ、委員長がタケシの告白で思考回路が破壊されてしまっている。


「と、とにかく逃げるにしても他の手段を考えるにしてもまず授業受けながら計画を練るのはどうかな?」


確かにそうだ。家族を連れて逃げるにしてもクラスのみんなを連れて逃げるにしてもそれは簡単な計画では無いし、もしかしたら逃げずにみんなを助ける方法もあるかもしれない。

俺は思考回路が破壊された委員長よりも冴えないのか。


「そうだな、タケシ、一緒に授業受けながらみんなを救う方法を考えようぜ!!」


「おう、俺が委員長を救う方法を考えるからな!!楽しみにしていてくれ!!」


こうして、俺たちは授業を受けることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る