フロント? バック?

 突然だが私は女の子のうなじフェチだ。

 だから、席替えで絹のような艶々しいロングの黒髪を持ち、かつ授業中にそれをポニーテールに纏め上げているようなの後ろにありつけたときなんかは、至上の興奮と歓喜よろこびを纏うことになっている。そして、ガン見しすぎて睨み返されるまでがワンセットだ。

「……見すぎ」

 今回に限っていえば、私の前に来たのはクラス委員長にしてクラス内でも最強クラスの“美うなじ”を持つ瀬菜せなで、授業中はポニーテールにしているというところまで、とにかく私の好みど真ん中だった。

「あはは、ごめんごめん。でも今のうちにウナジニウム補給しとかないとさ、授業始まったら瀬菜とは教室離れちゃうから」

「なんだよその頭の悪そうな元素は」

 私がうなじフェチであるということはクラス中に知れ渡っているので、本気で嫌がる子以外は大体、私の性癖に付き合ってくれる。瀬菜も例外でなく、朝のHR前の貴重な時間を邪魔されても怒ったりしない。瀬菜は後ろを振り返り、眼鏡越しにこちらを見下ろしてくる。おわかりの通り、こちらに正面顔を向けられるとうなじを拝むことができない。

「……ごめん、心苦しいお願いなんだけど…向こう向いてて?」

「わかっちゃいたけど失礼なやつだよな、お前って」

 瀬菜はにっ、と口角を上げて、悪戯っぽく舌を出した。

「だが、嫌」

 あ、なんかこの、真面目な委員長が私にだけ見せるおどけた顔、みたいなのはいいかもしれない。刺さる。新しい境地に目覚めちゃいそう。

「まあいいよ、これから3ヶ月くらいは堪能できるわけだし? 瀬菜が嫌じゃなければ、存分に見せてもらうからさ」

「ふぅん」

 瀬菜はそう言って、すっと前を向いた。あれ、案外素直?

「HR始まるよ」

「ん……」

 私は気のない返事を寄越すと、揺れるポニテと覗くうなじに鼻息を荒くした。

 やはりうなじはいい。最高だ。でも――……。



「ねぇねぇ、瀬菜!」

 昼休み。偶然瀬菜と会ったので呼び止める。

「なんぞや」

 振り向いた彼女から、さっと眼鏡を奪う。

「ちょっ……返せ! 私それないとなんにも見え――」

 奪って、またかけさせる。

「何がしたいんだ、お前」

「えへへ…ごめんごめん」

 うんざりした表情の瀬菜にはちょっと悪いな、と思いつつ、私は秘めた胸の内を明かすことにした。

「……その、眼鏡っていいよね?」

「……宗旨替えか?」

「ふ、増やしたんだよ。ほら、その……今朝、瀬菜に睨まれたりうなじ隠されたりしたときにさ、その……これイイ! ってなって……」

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