快眠業者 ⅩL

 じゃあ。

「やるんですか、ウェブに広告を打ったりとか……」

「ですから、今すぐにというわけにはいきませんよ。段階を踏んでからですが……加奈かなさんの作戦自体は、非常に有意義で、また有効なものです。私は忌避してきましたが、向き合うべき時なのかもしれませんね」

 快眠請負人はさらに言葉を続ける。

「わかりました。ウェブページを開設しておきましょう……というより、私はまったく詳しくないので、加奈さんに一任してもよろしいですか? いつでも稼働できる状態にして、一旦は非公開、という形に」

「は……はい! 私でよければ!」

「貴女しかいませんし、貴女以外に任せるつもりもありませんよ。それと、今後の具体的な動きについてですが、貴女の発言でいい案が思い浮かびました」

「いい案?」

 それは、朗報と言わざるを得ない。現状に覆い被さる暗雲を、あるいは一掃できるかもしれない。

「なんですか、それって」

「――――少々、突飛な話かもしれませんが」







 屋敷の外に出る。移動手段は徒歩だが、距離はそうない。地理は九州地方の某県の筈だが、快眠請負人はさほど迷う様子もなく、まっすぐ歩いていく。

 ――傍から見れば、少々奇妙かもしれない。加奈の格好はボーダーのカットソーにデニムパンツと至って普通だが、具すのは小学生ほどの身長しかない白装束の少女だ。人通り自体は少なかったが、それでもすれ違う通行人からはそれなりに好奇の視線が突き刺さる。加奈はほんの少しだけ気恥ずかしかったが、それでも努めて、なんでもないように装い、歩いた。

 程なく、目的地に着く。低木の植木に囲まれ、古風かつ洋風の設えだが、ややこじんまりとしていて、快眠請負人が根城としていた場所よりは目立ちにくい。

 快眠請負人は玄関のところまで進んでいき、ドアノッカーを揺らした。白塗りのドアは随所に装飾がなされ、ドアノッカー自体にもライオンの顔が象られていた。インターホンの類はないようだ。

 間もなく、白いドアは錠が外され、向かって開かれる。訝しむ加奈を他所に、快眠請負人は家の内部へと入っていった。加奈も仕方なく後に続く。

「ひっ」

 そこで思わず声をあげてしまった。開いた扉の陰に、人形のように物言わぬ女性の姿があったからだ。耳を澄ませば、僅かに呼吸音のようなものが漏れ聞こえる。生きているのだ。それがわかって、少し安堵した。

 快眠請負人の手前、滅多なことでは驚くまいとしていたのだが。まあ、これから慣れていけばいい。

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