快眠業者 ⅩⅩⅩⅦ
「――続きを。続きを話しましょう。快眠さんの能力って、あまりにも意志の強い人には効かないんですよね。だから効力は本人の意志の強さに依拠するもので、絶対的な効果を保障できない……合ってます?」
快眠請負人は頷く。
「そこで疑問なんですけど……本人が自分でも気づいていない本心と催眠の内容が合致していた場合の効果って、どうなるんですか?」
言ってから
案の定、快眠請負人は問い返した。
「――ええと、つまり……」
「つまり……例えば本人は、本人の意志であの場所には絶対に行かないぞって思ってたとして。でも実は……深層心理とか、そういう深いところ、もっと心の奥の根っこのほうでは、行くまいとしていた場所に行きたがっていたんだとしたら……催眠はどちらに
「……それは」
快眠請負人はそう漏らし、そして腕を組んだ。
「難しい質問です。私の能力は最前から何度もお話ししているとおり、相手の意識下に介入する形で作用するもの。実のところ、そういった深層心理などが絡んできた場合にどうなるか、というのが未知数なのです」
「……」
「私の力はいわば思考を発生させる、と言い換えたほうが良いかもしれません。思考を介入させ、対象がはじめから自分自身の意志でそう決めたのだと錯覚させる。どんな理不尽であっても、自由意志だと刷り込ませ、その通りに行動する、と。ですから、今の加奈さんの質問に最も近い答えを出すなら……深層心理までは変えられない、といったところでしょうか。あくまで当人が現在進行形で考えていることにしか影響は及ぼせない、と考えるほうが妥当です」
「そうですか……」
「無論、例外はいくらでも存在しますが。あくまで
「……今のところは特には。内心や本音を引き出すことはできない、ということがわかればいいんです」
「カウンセリングとは趣を異にしますからね……近い要素を持つのは否定しきれませんが」
「資格とかはお持ちでないんですか?」
「取ろうと悩んだことは。ですがあまり上手くはいきませんでした。私と一般常識はやや乖離したところにあるようで……私にはこういう生き方が合っているのでしょう」
快眠請負人は独りごちる。
「ありがとうございます。それで次なんですが……」
加奈は、快眠請負人の憂鬱を吹き飛ばさんばかりに、話題のハンドルを切っていった。
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