ひとコマ
私は1200ccの大型バイクを飛ばして、閉店15分前のリカーショップに駆け込んだ。
「らっしゃーい」
大将の景気のいい声が私を出迎える。常連でさえあれば多少、遅い時間に行っても嫌な顔はされない。それどころかむしろ、手伝える範囲で閉店にかかる作業を手伝ってやれば、缶ビールを一本オマケしてくれることさえあるのだ。
無論、それは大将の厚意によるもので、レアケースだということはわかっている。ただ、現代社会では、それが本当は良くないことだと理解しつつもそれに甘えねば生きていけない、ということが多々ある。
「お疲れ大将。何かいいの
「おう、ミサちゃんか。運が良かったな、いいプロシュットが安く手に入ったんだよ」
大将はにこにこ笑いながら、棚の前まで私を案内してくれた。なるほど
「じゃあ、2パックお願いしようかな」
「おう、任せな」
大将は閉店時間も近いというのに丁寧に梱包してくれた。それには感謝しつつ、閉店作業で手伝えそうなことはなかったのでさっさと店をでようとする……と、背後に視線を感じた。
「……ナオちゃん、起こしちゃった? ごめんねうるさくて」
酒屋の一人娘・ナオだった。大将はシングルファーザーで、10歳になる一人娘を男手一つで育てている。
「おわ、ナオ! もう寝る時間だろ? 駄目じゃないか……」
「だって、ミサちゃんのバイクの音が聞こえたから」
パジャマ姿のナオは目を擦りながらそう言った。
ナオは、なぜだか私によくなついている。確かに数回、一緒に遊んだことはあるけど、そんなにお菓子とかあげた覚えはないのに。店によく来てくれるからとか、そういう打算で付き合う相手を選ぶような子でもないだろうし……。
「ね、ミサちゃん、次いつ来るの?」
眠そうだけど心底嬉しそうな顔で、ナオは私に訊ねた。うーん、荒んだ現代社会、こういう衒いのない笑顔が胸に刺さる。
「ほらほらナオ、もう寝ないと。明日早いんだろ?」
大将が急かすのを宥めて、私はナオの視線までしゃがみ込む。
「おっけ、ナオちゃん。今度の土曜、時間作ったげる」
「ほんと!?」
ナオの顔が綻んだ。
「そんでね、私のバイク乗せたげる。だから今日はごめんね……待てる? それまで」
「うん!」
ナオは元気いっぱいに頷く。私はその頭を撫でた。
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