快眠業者 ⅩⅩⅩⅥ
何はともあれ、快眠請負人が覚悟を決めたのだ。
そして、相手はこの国そのものであり、それすらも……ひょっとすると過程でしかないのかも知れない。旅路がどれほど険しく、また過酷でも、加奈は快眠請負人を信じるしかない。
「――委細把握しました」
「本当ですか?」
「……逐次確認はしますけど」
快眠請負人は、ふっ、と笑った。
「では、話を大元に戻しましょう。短期達成目標、並びにそのゴールを設定する」
「……はい。いきなり大それた計画に移っても勝算がありません。だから、前段階として、あの……ごめんなさい具体的に決まっているわけではないんですが」
「わかっています、一緒に考えていきましょう」
「やるべきことは?」
「日本全土を舞台に、個々人の睡眠時間を掌握。列島全体の『睡眠の質』を向上させます。ですが、私一人の力ではどうにもなりません」
「……」
「幸いにして、この催眠能力を使えるのは私だけではありません。私は人助けのためにしかこの能力を発揮してきませんでしたが、目標が存在するのであればまた違ってきます。より合理的に、この力を行使できる」
「……助けるためじゃない……っていうのは」
「…………傷つけるため……とは言っていませんが、ですが……」
快眠請負人は言葉を濁した。加奈はずっと、彼女の力が「誰かを傷つけるために」振るわれるのを危惧している。そして、快眠請負人は、おそらくそれを汲み取っている。
だからこそ、言葉に詰まるのだ。
「――あの」
加奈はおそるおそる口を開く。
「あの、快眠さんは……快眠さん自身は、それをどう思っているんですか」
少し悩んで、快眠請負人が問い返す。
「……人を……いえ、人に、自由意志に
「……はい。いえ、もちろん本意では……好きでやっているのではないないということを前提に置いての質問ですけど」
「……」
快眠請負人は沈黙した。その目は暫時伏せられ、口はゆっくりと開いて静かな呼吸を繰り返す。
なんと答えればいいのか、迷っているのは明らかだった。
「……はい」
長い沈黙の末、快眠請負人は頷いた。
「必要とあらば、本人の意に沿わない行動をさせて、そして場合によっては、その対象に不利益を被らせることも辞さない。その覚悟で私は――」
「快眠さん」
加奈は割り込んだ。言葉を紡ぐ、というには、快眠請負人はあまりにも寂しく、痛々しい表情をしていたから。
「わかりました。もう充分です」
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