JSRS-51s Patrol-log

 22世紀に入り、ようやく人類は地球外に居住区域を拡大し始めた。地球の人口爆発を火急に解決すべく、各国合同の超巨大宇宙ステーションの建設が進められ、多くの地球人が母星の土を離れていった。


 カミハラ・ススキは、日本J政府G管轄C成層圏S居住R空域S――通称『JSRS』の統合指揮官だった。担当区域エリアは「第51区画セクター」、のこの区域で、電磁警棒片手に彼女は、警備巡回パトロールを行っていた。

 扱いは公務員だが、給料は雀の涙だ。しかしギャングは、居住区域法の秩序を無視して違法行為を働く。中には拳銃ピストルを持っている奴までいる。極めて危険だが、現状を放置するわけにもいかず、上から降りた少ない予算をやりくりせねばならない。

「!」

 廊下を歩くススキの頭上を、高速の物体が通過する。ドローンだ。反射的に警棒で叩き落す。

「……誰だこれ飛ばしたのっ!」

 煙を上げて落ちた残骸をつまみあげながら、ススキは怒鳴る。

 すると、へらへらと笑いながら、角から髪を金に染めた少女が現れた。

「官憲さん、酷いじゃないっすか。高かったんですよ、それ」

「……またお前か、くら

 ススキは怒りに拳を固めながら、金髪の少女……ギャングのリーダー・佐倉さくらと対峙する。軽く100年は前のデザインのセーラー服を纏い、ジョイント付きの煙草を銜えて区域内を徘徊している女だ。手広くを売買しているが、そういうのは政府の許可がなければ取り扱えないことになっている。

「……お前なぁ。義務教育は終わってんだろ? だったらいつまでもこんな中坊みたいなことしてないで――」

「隙あり!」

「あっこら‼」

 桜はススキが腰だめにしていた警棒を奪い取った。スイッチを操作して、電気モードを切り替えながら弄ぶ。

「へえ、すごいなこれ。高く売れそう」

「……返しなさい。公務執行妨害は空の上でもるのよ」

 ススキは凄む。だが、桜にはまるで効果がない。

「取り返したかったら、力づくで奪い返せばいいじゃない。これ、支給品――」

 桜の言葉はそこで途切れた。

 ススキが、警棒の、あろうことか素手で掴んだからだ。

「なっ……」

「入れなよ。スイッチ」

 冷たい声が響く。

「……バカ……じゃないの……? これ、電圧――」

「だから? そんな度胸もないのに、ギャング紛いやってるの?」

「――ッ!」

 桜の手が、警棒のグリップから離れる。そして、そのまま膝から頽れる。

「ありがとね、返してくれて」

 ススキは踵を返した。

 桜の震えは、暫く治まることもなかった。

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