トレジャーハント Ⅶ

「担当はこまめに入れ替わるし、名前は残ってるけど金の動きにのは経理担当だけじゃない。なんなら、経理に虚偽うその報告を上げれば金を浮かせることはできる」

「そんな……セキュリティが緩すぎないですか、さすがに……私が言えた義理じゃないですけど」

「明確にのよ。それだけじゃない、なんというか……外部に問題が漏れないようにしてるっていうか。起きた問題インシデントを社ぐるみで隠そうとする体質があるの、うちには」

「そんな……」

「でも、今回のはコトが大きすぎた。調べたら億単位……幹部や役員クラスが出張って、密かに犯人探しに躍起になってる。犯人が社内にいるなら、いわばを勧める意味合いもあるんでしょうけど」

 やはりこの会社では誰も信用してはならないようだ。

「警察に突き……すのは最終手段ですか」

「会社が『悪くない』って言ってるうちはね」

「……」

 私は黙りこくるしかなかった。確かに、大手の下請けをはじめ外部業者との繋がりが多い業種ではある。心証が大事だということは理解できるが、そこまでの隠蔽体質だとは。

「……私は根気強く調査を進めた。勿論、調べるうちにわかったこともあって……何人か候補は絞れそうだったの。当時の経理担当は元より、領収書を切った中でも消耗品や交際費など、物を購入した人を中心にリストアップして動向を調べた。時には探偵まで使ってね」

「それで……どうなったんですか」

「いろんながいた。と言い替えてもいい。中には初めて名前を見た人も、旧知の仲の親友もいたわ」

「親友って……加賀見かがみさん、ですか」

「…………ええ」

 話し終えて、宮藤みやふじさんは顔を覆った。声が少しだけ、濡れているような気がした。

「……加賀見はね、あいつは……加賀見よしは、私の大学の同期だった。同じ年に卒業して、同じ会社に入って……あんまりべたべたしてたわけじゃあないけど、それなりに友情らしいものはあった。二人で呑みに行ったり、お互いの仕事を手伝ってあげたりしてね。ま……長くは続かなかったんだけどね。私が名古屋に異動になって、その間もちょくちょく連絡は取り合ってたんだけど、次第に頻度も減っていって」

 席に着いたとき、お店の人が出してきたお冷やが、すっかりぬるくなっていた。

「……私は……加賀見のこと、嫌いになんてなったつもりはなかったんだけど」

 言うか言うまいか、宮藤さんは明確に躊躇っていた。

「向こうは……わからないわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る