トレジャーハント Ⅷ

「……あの」

 私はおそるおそる口を開いた。

「失礼を承知でお訊きします。宮藤さんは加賀見さんに避けられるような、そういった心当たりはないんですか」

「さぁ? 少なくとも、私のほうはなんとも……何か恨みを買ったのか、それとも単なる行き違いか。気にしないようにしてたし、仕事も忙しかったから、友情なんて所詮こんなもんだろうって割り切ってたんだけどね」

 宮藤さんの眼から、すっ、と涙が零れ落ちた。

 狼狽する私に、彼女は、いいの、と手で遮った。

「なんなんだろう。わからないわ……でも、だからって、加賀見があなたに接触して、私を嵌めようとしたのは事実だし、それは覆せない」

 目元を拭いながら、宮藤さんはぽつりと言った。

「加賀見は……あまり頭で考えるタイプじゃない、って言うとアレだけど、考えるより先に行動する。だから正直、人の上に立つガラじゃないと思う……だからどうってワケじゃないんだけど」

 宮藤さんは露骨に言葉を濁した。私の読みは……つまり、加賀見は頭脳戦が得意なタイプじゃない、という分析は当たっているみたいだ。直接私に接触したり、宮藤さんを追い詰めてみたり。これでは自分が犯人または関係者ですと自白しているようなものだ。

 浅い。加賀見の動きは、底が浅くて卑しい。ろくに話したこともない相手の印象を、そういう風に決めつけるのは良くないとわかってはいたが。

 しかし、それゆえに恐れなければならない。追い詰められた人間……特に底の浅い人間が追い詰められたときには、常識の埒外の言動・行動に出る。常人の思考とは別のルーティンで脳が働いている……厄介極まりない。

「さっきも言ったとおり、この時点、この情報量で加賀見がクロだと断定するのは危険。もしあいつが誰かを庇っていた場合、加賀見はその真犯人を逃がすまでの時間稼ぎのデコイに使われている可能性が高いから」

「……」

 それもそうだ。

「兎に角……今、最も懸念すべきはあいつの行動。こっちは証拠も出揃ってないし、何しでかすかわかんない加賀見を野放しにしておくのは危険……」

「ですよね。この後どうします?」

「一旦別れて、また合流しましょう。くっついていたほうがいい。あと、加賀見対策が必要……そのうちあいつは、もっと直接的な手段に出てくる筈よ」


 その後、二人で鮎の塩焼きを注文して、分け合って食べて、場を辞した。すっかり日は暮れていた。

(そういえば……この写真の真偽、確かめてなかったな)

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